今日はタンス預金に関する調査は、ギャンブルなどで使ったと言えば回避できるのか?という話をします。
以前、投稿した「税務調査の対象となってしまう預金口座の管理方法5選」という動画内で、お金が出ていくばかりで、出金に対する見返りがない口座や、高額な入出金が多い口座というのは、税務調査の対象に選ばれやすいですよ、というお話をしました。
その動画のコメント欄に視聴者の方からこのようなご質問をいただきました。
亡くなった親が多額の預金をギャンブルや夜のお店で使い果たしていた場合、その親の口座は高額なお金が出ていくばかりの口座になっていますが、その家庭は税務調査に選ばれてしまうのでしょうか?というものです。
またタンス預金はバレますという動画のコメント欄では、たとえ亡くなった親に多額のタンス預金があるんじゃないかと疑われても、タンス預金として手元に貯めこんでいるのではなく、キャバクラで飲み歩いて使った、競馬などのギャンブルで使い込んでいた、と供述すれば、税務調査の際に、調査官の追及を回避することはできるんでしょうか?という質問をいただきました。
最初の質問者の方は、本当に親がギャンブルで高額なお金を使い果たしたとしても、税務署から脱税を疑われてしまうのか?という質問で、後の質問者の方は、たとえ相続の際に親が高額なタンス預金をしていたとしても、ギャンブルや夜のお店で使い込んでいたといえば、タンス預金を相続財産として計上しなくても、税務調査官にはばれないのか?という質問ですね。
果たして税務調査の際には、親の散財というのはどこまで追及されるものなのでしょうか?
今回の動画では、最初に本当に親がギャンブルや夜のお店でお金を使い込んでいた場合の税務調査の流れについて解説した上で、次に親がギャンブルや夜のお店でお金を使い込んでいたと嘘の供述をした場合の、税務調査の流れはどうなるのか?という部分についてお話し、最後に「仮装・隠ぺい」には、重加算税という最も重いペナルティが課されることになるという、3つのテーマについてお話していきます。
本当に親がギャンブルや夜のお店でお金を使い込んでいた場合
ではまずは最初のテーマとして、本当に親がギャンブルなどでお金を使い込んでいた場合、税務調査官はその過程に対してどのような調査を行うのでしょうか?
この小林家の夫は2020年に亡くなったのですが、亡くなる10年前の2010年の時点では、所有している不動産が4,000万円、預金が4,000万円ありました。
小林家の場合、相続人は奥さんと長男の2人ですので、相続税の基礎控除額は4,200万。
つまり2010年の預金残高の時点で、夫が亡くなった場合は、小林家の夫には8,000万円の財産から、4,200万円の基礎控除額を引いた3,800万円の部分に、相続税が課税されることになります。
しかし2020年に夫が亡くなった後、調査官が小林家の夫の預金口座を調べていると、過去9年間にわたって、高額な出金がなされており、その結果、最終的に2020年の相続発生時には、小林家の夫の財産額は4,100万円になっていたんですね。
そして小林家の場合、基礎控除額が4,200万円でしたので、小林家の妻と長男は相続税の申告も納税も行なっていませんでした。
さて皆さんが調査官の立場だったら、この2011年から2019年までの合計3,900万円の出金をどのように見るでしょうか?
過去9年間にわたり、高額な出金があるのにそれに対する見返り、つまり車を買った、保険を契約した、家族に贈与を行い、そのお金が家族名義の口座に入金された、こういった形跡が一切ない。
この場合皆さんが税務調査官でしたら、小林家の夫はタンス預金として預金を引き出し、どこかに隠してるんじゃないか?と疑うのではないでしょうか?
ですのでその疑惑を追求するために、後日税務調査官は、亡くなった後の相続人に対し、聞き取り調査を行うんですね。
その際の流れはこのように進みます。
「2011年から2019年にかけて預金の出金がありますが、これは何に使われたんでしょうか?」
この税務調査官の質問に対して、相続人から、「この出金はきっと2人が大好きなギャンブルやスナックに使っていたお金ですね。主人は昔からこの二つに関しては足繁く通っていたんですよ。」とこのような返答があったとします。
ですが調査官はこの返答を鵜呑みにすることは決してありません。
ここで「はいそうですか、わかりました。」と納得して帰っていたら、誰も相続税なんて払わなくて済みますからね。
ですので調査官は先ほど聞き取りをした内容を、さらに掘り下げて質問をします。
「ギャンブルというのは、競馬ですか?ボートですか?競輪ですか?」「現地に行かれてましたか?ネットで馬券や舟券を買っておられましたか?」
このような調査官の質問に対して、「ネットでやり取りをしていました。」という返答がありましたら、そのサイトの履歴から、本当にギャンブルをやっていたという実態をしらべますし、「夫の友人と二人で現地に通っていました。」という返答がありましたら、その友人に連絡を取り、実際に小林家の夫が競馬や競艇で、高額なお金を使っていたのか、という実態を解明するんですね。
またスナックやクラブに通っていたという返答を受ければ、その現地の場所を聞き直接店舗に足を運びます。
そこで店長に経緯を説明し「本当に小林家の夫がこの店に訪問していたのか?」「接客をしていたのは誰か?」「どれくらいのお金を使っていたのか?」など聞き取りを行います。
また店長やスタッフの聞き取り内容をもとに、調査官は銀行調査を行い、出金した日時や出金伝票を調べて、出金は本当に亡くなった夫が行なっていたのかも調べます。
また預金を引き出した日時や、筆跡などを解明し、引き出した人を特定して、引き出した人を追求します。
なぜなら生活費や車を買うお金を家族が引き出す、という行為はあり得ますが、ギャンブルやスナック代に使うお金を家族が銀行に引き出しに行く、ということは普通は考えられませんよね。
仮に家族が預金を引き出していたことが判明したら、相続人の答弁が嘘だということがわかります。
このような調査の結果、2011年から2019年にかけての合計3,900万円の預金は、本当にギャンブルとスナック代に消えていたということが判明しました。
そのため小林家には、調査の結果によって追徴課税が課されることも、延滞税無申告加算税のペナルティーが課されることもないということですね。
ところで皆さん、なぜ調査官は亡くなった方の友人や、スナックの店員への調査ができるのか?また調査を受けた人達は、なぜその質問に答えなくてはいけないのか?という部分について、疑問に思われるかもしれません。
ですがこれについては国税通則法という法律で、きちんと定められております。
それが国税通則法第74条の3の質問検査権というものなんですが、調査官はこの法律によって、民間人への調査が許されているんです。
この条文をざっくりと読んで行きますと「国税庁等の当該職員は相続税もしくは贈与税に関する調査について必要があるときは、当該各号に定めるものに質問し、もしくは当該財産検査し、又は当該物件の提示もしくは提出を求めることができる」というものです。
では調査官から質問を受けた人は、なぜその質問に正直に答えなくてはいけないのか?と言いますと、国税通則法の128条によって、罰則が定められているからですね。
こちらもざっくりと読んでいきます。
「第七十四条の三の規定による当該職員の質問に対して、答弁せずもしくは偽りの答弁をした者は、一年以下の懲役、又は五十万円以下の罰金に処する」というものです。
税務調査官はこれらの法律に則って、店舗への立ち入りや民間人への調査が許されているんですね。
話が少し本筋から逸れてしまいましたが、今回紹介した聞き取り調査を含めた一連の調査手法というのは、実際に調査官が行う手法のほんの一部です。
税務調査官というのは、税金逃れや嘘の証言を見抜く専門家ですから、先ほどお話しした一連の追求方法の他にも、相続人が嘘を言っているのか、本当の証言をしているのかを調べる手段を数多く持っています。
ですからこの動画をご覧の方は、本当はタンス預金としてお金を隠しているけれど、ギャンブルや夜のお店で使い込んだと言えばバレないだろう、とこういった安易な判断を取らないようにしてくださいね。
税務調査官には嘘がばれます。
そして調査の結果、嘘がばれてしまえば、その後相続人の人達は大変な目にあってしまうんです。
親がギャンブルや夜のお店でお金を使い込んでいたと嘘の供述をした場合
では実際に本当はタンス預金としてお金を隠しているけれど、ギャンブルや夜のお店で使い込んだと嘘の証言をして、脱税を試みた人はどうなるのでしょうか?
まずは先ほどの家族同様調査官が、松井家の夫の口座を調べていると、2011年から2019年にかけて高額な出金がなされていました。
この時点ではまだ、この松井家の夫が3,900万円の預金をどのように使ったのか、または相続人が隠しているのかが分かりませんので、後日税務調査官は、亡くなった方の相続人に対し、聞き取り調査を行います。
その際にまず松井家の相続人が、亡くなった夫は、2011年から2019年にかけて合計3,900万円の預金を下ろし、タンス預金として保管していた事実を知った上で、調査官に対してこの出金は、「きっと主人が大好きなギャンブルやスナック代ですね。」と嘘の証言をしたらどうなるのでしょうか?
当然調査官は、この相続人の方達の証言を鵜呑みにはせず、先ほど同様に相続人や証言に登場した人物を、お店に対して表現の実態を調査します。
するとこの相続人たちの証言は全くの嘘で、亡くなった松井家の夫には、2011年から2019年にかけてギャンブルやスナックに通っていたという実態がなかったことがわかりました。
そのため調査官はさらに、松井家の相続人を追求し、結果2011年から2019年にかけて、引き出したお金は実家にタンス預金として保管してあるということが発覚しました。
では嘘の証言と隠した財産が発覚した松井さん一家には、その後どんなペナルティがあるのかを見ていきましょう。
「仮装・隠ぺい」には重加算税という最も重いペナルティ
この松井家の場合、夫の預金3,900万円は、本当はタンス預金として、保管されていることを認識したまま、あえて相続税の申告をせず、その後の調査で嘘の証言をしましたので、この行為は財産の仮装・隠ぺいとして、重加算税という最も重いペナルティが科されることになります。
松井家の場合、本来でしたら財産8,000万円から相続税の基礎控除4,200万円を引いた、3,800万円の部分に相続税がかかるのですが、今回松井家一家は夫のタンス預金3,900万を不当に隠したことで、見かけ上の夫の財産は銀行口座に残っている残高100万円、所有している不動産4,000万円、合計4,100万円となり、相続税の基礎控除4,200万円以下になりました。
そのため松井家の相続人は、もともと相続税の申告自体を行っていなかったんですね。
この場合松井家に対しては、一番重い無申告加算税に加えて、重加算税40%が納税額に対して課されることになります。
つまり松井家の相続人は、本来納めるべき相続税額470万円に対して、ペナルティーとして40%をかけた188万円を追加し、合計658万円もの税金を納めることになるんですね。
また重加算税の場合、延滞税は申告期限の翌日から正式な納税額を納める日までの全期間において課税されますので、さらに多くの税金を支払うことになります。
ここまでの説明を聞いて「でも相続税には亡くなった方の配偶者なら、最低でも1億6,000万円までの財産を、非課税で相続できる配偶者の税額軽減があるんだから、その特例を使えば税金はかからないんじゃない?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、そうではありません。
重加算税の対象となった人が配偶者でしたら、相続税の特例である配偶者の税額軽減は使うことができないんです。
そのため最初からきちんと申告をして、配偶者の税額軽減の特例を活用していれば、8,000万円の財産を、相続税ゼロ円で受け取れていたのに、あえてタンス預金として預金を隠し、そのお金をギャンブルで使ったという、嘘の証言をしたばっかりに、結果的に松井家の相続人は470万円の相続税と、188万円もの重加算税、さらに高額に膨れ上がった延滞税を支払うことになってしまったんですね。
ですので調査官に嘘の証言を行うくらいでしたら「そんな昔のことは忘れました」ととぼけた方がまだマシです。
そうすればこの松井家の場合、重加算税よりもペナルティが軽い申告加算税で済んでいましたからね。
それでは今回の動画のまとめです。
今回の動画のまとめ
当チャンネルの視聴者の方から「本当に親がギャンブルで高額なお金を使い果たしたとしても、税務署からは脱税を疑われてしまうのか?」また「たとえ相続の際に親が高額なタンス預金をしていたとしても、ギャンブルや夜のお店で使い込んでいたと言えば、税務調査官にはばれないのか?」という質問をいただきました。
1番の家庭については問題はありません。
きちんとありのままの事実を証言してもらえばいいんですね。
その証言をもとに調査官は調査を行いますが、どんなに調査をしても出てくるのは証言通りの事実だけですから、結果1番の家庭には追徴課税が課されることも、延滞税や加算税のペナルティが課されることもありません。
しかし、2番の嘘の証言をした家庭は違いますね。
実際の事実を捻じ曲げて、財産の仮装・隠ぺいを行ってしまったわけです。
先ほども話したように、税務調査官というのは税金逃れや嘘の証言を見抜くプロですから、嘘の証言は見抜かれてしまい、結果2番の家族には重加算税という最も重いペナルティと、長期間に及ぶ延滞税が課税されることになります。
ですので、この動画をご覧の皆さんは、どうか税務調査官を欺こうという気持ちは捨てていただいて、今現在やましい部分が少しでもあるという方は、相続専門の税理士に相談をし、やましい部分を解消しておいていただければと思います。
秋山清成
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