ある日突然、家族が予期せぬ事故や急病で亡くなってしまったら――。想像を絶するショックと悲しみの中で、何をどうすれば良いのか分からなくなるかもしれません。
通常の病気や老衰による看取りとは異なり、突然死・事故死の場合は警察の介入など特別な手続きが必要となります。
本記事では、もしものときに備えて警察への連絡から検視・死体検案書の受け取り、そして葬儀準備までの流れを解説します。突然の別れに直面したご遺族の心情に寄り添い、通常のケースとの違いや心構えについても触れることで、不慮の事態でも落ち着いて葬儀を進められるようサポートいたします。
目次
突然死・事故死直後の初動対応と検視の流れ
自宅で家族が急に息を引き取っていたり、交通事故などで亡くなったとの知らせを受けた場合、まず何をすべきでしょうか。突然死・事故死では、医師による死亡確認がその場で得られないことが多く、警察への通報と現場検視が必要になります。
本章では、119番通報や110番通報の判断、警察や医師による検視の流れ、そして現場で気を付けるべき点について説明します。通常の看取りの場合と異なる初動対応を理解し、慌ただしい状況でも適切に行動できるようにしましょう。
突然死発見時の通報の仕方
家族を自宅で発見した場合、まず救急車を呼ぶべきか警察に連絡すべきか判断に迷うかもしれません。基本的には、反応がない場合は119番へ通報して医療措置を依頼します。
しかし、明らかに死亡している(脈や呼吸がなく死後硬直や死斑が見られるなど)場合には、かかりつけ医がいれば連絡して来てもらいます。かかりつけ医がいない場合や医師が死亡確認できない状況では、警察に連絡して検視を依頼することになります。救急隊が到着しても蘇生不能と判断された際も、警察を呼んで現場検証が行われます。
警察による検視と死体検案書
警察官と警察医(監察医)による検視では、遺体や周囲の状況を調査し事件性の有無を確認します。これは事故死・災害死・自殺・突然死など「異状死」の場合には必須の手続きです。検視には医師の立会いがあり、遺体の外表を詳しく調べて死亡状況や死因を推定します。
事件性がないと判断されれば、警察の依頼した医師によって「死体検案書」が作成されます。この死体検案書は通常の死亡診断書と同一の様式であり、死因や死亡時刻などが記載された正式な証明書です。なお明らかな事件性がある場合には、検視後に司法解剖へ進む可能性があります。
現場で気をつけるべきこと
ご遺体を発見した際、絶対にしてはいけないのは遺体を動かしてしまうことです。不用意に遺体の位置や状態を変えると、死因の判断が難しくなり警察の検証に支障が出る恐れがあります。警察が到着するまで現場をそのまま保存し、周囲の状況も変更しないように注意しましょう。
また、ご遺体の尊厳に配慮しつつ毛布をかけるなど安置しますが、体に触れたり衣服を外したりしないようにします。警察から事情聴取を受ける場合もありますが、動揺していてもできるだけ落ち着いて事実を伝えるよう心がけてください。特に事故現場では警察の指示に従い、安全を確保して行動する必要があります。
突然死・事故死に直面した直後は強いショック状態に陥りますが、まずは速やかに然るべき機関へ通報し、医師または警察による死亡確認を受けることが最優先です。現場では遺体や証拠を動かさず、警察の検視に協力する姿勢が大切です。
通常の病死と異なり、公的な調査が入る分だけ手続きに時間がかかりますが、この段階を経なければ正式な死亡証明が得られません。深い悲しみの中にあっても、「必要な手順を踏んでいる」という意識を持ち、ゆっくりでも構いませんので一つひとつ対応していきましょう。
検視後の遺体引き渡しと葬儀の準備
警察による検視が完了すると、いよいよご遺体をご遺族のもとに迎え入れる段階です。ただし通常の病院死亡とは異なり、検視結果の確定や必要に応じた解剖の有無によって遺体の引き渡し時期が左右されます。
本章では、死体検案書の交付と死亡届の提出手続き、警察署や監察医務院からの遺体の引き取り方法と流れ、さらに検視・解剖に要する日数と葬儀日程への影響について解説します。検視中に進めておくべき準備や、葬儀社との連携についても触れながら、スムーズに葬儀準備へ移行するポイントを確認しましょう。
死亡届と火葬許可の手続き
検視、そして必要なら解剖が終了すると、警察から死体検案書(死亡診断書)がご遺族に交付されます。これは死亡事実と死因を証明する書類で、市区町村役場に死亡届を提出する際に必要です。死亡届の用紙は死体検案書と一体になっており、必要事項を記入して7日以内に役場へ提出します(戸籍法第86条)。
参考 死亡届法務省役所に死亡届が受理されると、火葬許可証が発行されます。この火葬許可証がないと火葬ができません。火葬許可証には火葬場の名称が記載されるため、提出前にどの火葬場で荼毘に付すかを決めておく必要があります。多くの場合、葬儀社が代行して死亡届を提出し、火葬場の手配まで進めてくれます。そのため、検視が終わった段階で信頼できる葬儀社を決めておくと安心です。
遺体の引き渡しと安置
警察での手続き完了後、ご遺体は警察署や監察医務院からご遺族へ引き渡されます。引き渡しの際は、警察から事前に連絡があり指定された時間に警察署へ出向きます。
通常、ご遺体の搬送は葬儀社に依頼し、霊安室や自宅など希望する安置場所まで移送してもらいます。ご遺体の状態によっては、引き渡し時に警察で仮納棺されている場合もあります。事故などでご遺体に損傷がある場合や、司法解剖が行われた場合には、傷口の縫合を施されたうえで引き渡されます。
搬送後は安置先で本格的な納棺を行い、故人が気に入っていた服をお着せしたり、清拭・メイクなどを施したりします。警察への対応でゆっくりとお別れする時間が取れなかった分、ご遺族で落ち着いて故人と対面できるようになります。
検視・解剖が葬儀日程に与える影響
突然死・事故死の場合、葬儀日程は検視・解剖にかかる時間に左右されます。事件性がなく死因も明確なケースでは、検視は数時間〜半日程度で完了し、その日のうちか翌日には遺体が戻ることもあります。
一方で、死因不明や事件性が疑われる場合には解剖が行われ、解剖自体に半日〜1日、さらに結果確定や検査に数日〜1週間以上かかる場合もあります。特に司法解剖となった場合は捜査優先となるため、捜査状況によってはご遺体の返還まで数週間〜数ヶ月を要するケースもあります。また、ご遺体の損傷が激しく身元確認が困難な場合には、DNA鑑定に10日〜1ヶ月以上かかることがあります。
このように日程が読みにくい状況ではありますが、日本の法律上死亡後24時間以内の火葬は禁止されており(墓地埋葬法第3条)、いずれにせよ一晩以上はお体を安置しておく必要があります。
参考 墓地、埋葬等に関する法律厚生労働省警察の手続きを待っている時間を利用し、葬儀の日取りの目安を立てたり、親族・関係者へ訃報の連絡をしたりしておくと良いでしょう。葬儀社とも相談しながら、検視終了後すぐに葬儀に取りかかれるよう準備を進めておくことが大切です。
とはいえ、突然の家族の死に戸惑う中で、葬儀の準備を進めるのは心身ともに大きな負担です。そんなときは、「安心葬儀」のように信頼できる葬儀社紹介サービスの活用をおすすめします。地域や予算、希望に合った葬儀社を比較・検討できるため、落ち着いて準備を進めることができます。
検視が終わると正式な死体検案書が発行され、これによって初めて火葬や埋葬に必要な行政手続きが可能となります。突然死・事故死では、この警察による手続き期間が葬儀の日程に直接影響する点が最大の相違点です。平常時であれば通夜・葬儀は死亡の翌日〜数日後に行われるのが一般的ですが、検視や解剖によっては予定通りに進められないこともあります。
しかしその間に信頼できる葬儀社を選定し、必要な手続きを整えておけば、ご遺体返還後スムーズに葬儀に移行できます。悲しみの中でも事務手続きを並行しなければならない大変さはありますが、一つひとつこなすことで後悔の少ないお見送りにつながります。周囲の協力も得ながら、焦らず準備を進めましょう。
病死・老衰と突然死の違いと心構え
突然死・事故死での葬儀対応は、あらかじめ心の準備ができている病死・老衰の場合と様々な点で異なります。その違いを理解しておくことは、不意の別れに直面した際の心構えとして大いに役立ちます。
本章では、通常の病院での看取りケースと手続き面での違いを整理し、さらに精神的な負担の違いについて考察します。予期できた死と突然の死、それぞれにおけるご遺族の心理を比較しながら、深い悲しみと向き合いつつ葬儀準備を進めるためのポイントを紹介します。
最後に、悲嘆に暮れる中で周囲の支援を得る方法やグリーフケアの大切さについても触れ、残されたご家族が少しでも前を向けるような助言をまとめます。
病死と突然死の葬儀手続きの違い
病気や老衰で亡くなった場合は、医師が臨終に立ち会って死亡診断書を即座に交付します。病院死亡であればそのまま病室で対面の時間が設けられ、霊安室に安置された後、ご遺体はご遺族の手配した葬儀社によって自宅や斎場へ搬送されます。
一方、突然死・事故死では現場で医師の死亡確認が行われないケースが多く、警察による検視と死因調査が優先されます。そのため、死亡から葬儀社による搬送までに警察署等で一時的にご遺体が預かれられる時間が発生し、ご遺族がすぐに傍につくことが難しくなります。
また死亡届の提出についても、病死の場合は医師の死亡診断書を添付しますが、突然死の場合は警察医の死体検案書が必要となり、書類が手元に揃うまで役所の手続きも進められません。結果として、通夜・葬儀の日取りも病死時より遅れがちになる傾向があります。
なお、葬儀自体にかかる費用相場(一般的に80万~140万円程度)は事故死だからといって大きく変わるものではありません。ただしご遺体に損傷がある場合、追加でエンバーミング費用がかかるケースがあり、病院で清拭等が行われる自然死と比べ若干負担が増える可能性があります。
参考 ーエンバーミングー遺体衛生保全一般社団法人 日本遺体衛生保全協会突然の死が遺族に与える心理的影響
長い闘病の末の最期と比べ、全く予期していなかった突然の別れはご遺族の心に計り知れない衝撃を与えます。病気で余命が分かっている場合、家族はあらかじめ心の準備をし悲しみを予期する「予期悲嘆」と呼ばれるプロセスを経ることがあります。そのため死亡直後の悲嘆が幾分和らぐ傾向も指摘されています。
一方、突然死ではこの予期期間がないため、深い悲しみ、混乱、時には怒りや後悔といった強烈な感情反応が一気に押し寄せます。医学的にも、愛する人を失った直後には悲嘆(グリーフ)反応として様々な心理・身体症状が現れることが知られています。例えば食欲不振や不眠、現実感の喪失、罪悪感や「もっと何かできたのでは」といった後悔の念など、人によって表れ方は様々です。
突然死の場合、あまりに急な出来事に心が追いつかず、現実を受け入れられない状態におちいることも少なくありません。こうした反応はごく自然なものですが、葬儀という現実的な対応に追われる中で気持ちに蓋をしがちです。自分や他の家族が深いショックを受けていることに気付き、認め合うことが心のケアの第一歩となります。

落ち着いて葬儀を進めるポイント
突然の不幸に際しては、悲嘆に暮れるご遺族自身が葬儀準備の実務を進めねばならないという、厳しい現実があります。しかし、決して一人で抱え込む必要はありません。まずは、信頼できる葬儀社や周囲の親族に遠慮なく頼ることです。葬儀社は死亡届の提出代行や火葬場の手配はもちろん、納棺・安置から式の進行までプロの手で支えてくれます。
親しい親族や友人にも、連絡業務や式の受付役など協力してもらいましょう。心理面でも、一人で悲しみを抱え込まないことが大切です。感じている悲痛な思いを、身近な人と「話す」ことは心の癒しにつながるとされています。また、自治体や民間のグリーフケア支援(遺族のための相談窓口や自助グループ)を利用できる場合もあります。
急な出来事で自分の感情を後回しにしがちですが、心のケアと実務は両立させて良いのです。葬儀は故人を送り出す大切な儀式ですが、無理に完璧を目指すより、ご遺族が納得できる形で滞りなく執り行うことが最も重要です。不安な点は葬儀社に相談し、周囲の助けを借りながら進めれば、「あの時こうしておけば」という後悔も少なくなるでしょう。何より故人を想う気持ちを大切に、ご自身の心にも寄り添いながら葬儀の段取りを踏んでいってください。
病気で看取る最期と比べ、突然の死は手続き面でも心情面でもご遺族に大きな負担を強いるものです。警察対応や死因究明のプロセスに直面する非常事態の中でも、本記事で述べたような流れや違いを把握していれば多少なりとも心構えができるでしょう。
大切なのは、一人で抱え込まず周囲の助けを得ること、そして深い悲しみを無理に抑え込まないことです。突然の別れでも故人への想いに変わりはありません。そのお気持ちを大切にしながら、少しずつ現実と向き合い、必要な手続きを進めていきましょう。
まとめ
突然死・事故死という想像を絶する事態においては、平常時には経験しない警察での検視などのプロセスを経てから、葬儀へと移る必要があります。
本記事では、通報から検視・死体検案書の受領、死亡届提出、ご遺体の引き渡しと葬儀準備までの一連の流れを解説し、通常の病死との相違点や心構えについて述べました。頭では理解していても、いざ直面すれば大きな悲嘆と混乱に襲われることでしょう。しかし、事前に知識があれば「次に何をすべきか」を周囲と確認しながら進めることができます。
大切なのは、一歩一歩ゆっくりでも進むことと、決して独りで抱え込まないことです。葬儀社や親族の力を借り、故人を想う気持ちを支えにしながら、最後のお別れの儀式を滞りなく遂行できるよう願っています。不意の悲しみに暮れるすべてのご遺族に、心からお悔やみ申し上げるとともに、本記事の情報がお役に立てば幸いです。