人生の折り返し地点を過ぎると、「自分は残りの人生をどう生きるべきか」と考え始める方も多いでしょう。人は死の間際にどんな後悔を抱くのかを知ることは、これからの生き方を見直す大きなヒントになります。終末期医療の現場で聞かれる本音や、国内外の調査・研究、そして私たちが共感できる人生の教訓としての後悔についてまとめました。先人たちの後悔から、悔いのない生き方を考えてみましょう。
目次
終末期医療の現場で語られる「最後の後悔」
病院やホスピスなど終末期医療の現場では、患者さんが人生の最終段階で語る「最後の後悔」にたびたび直面します。長年ホスピスで勤務する医師の証言によれば、死の直前に多くの人が後悔するのは、お金や仕事の成果ではなく、「人間関係」と「自分らしく生きられたか」という点だそうです。つまり、最期に思い残すのは「もっと大切な人と時間を過ごせばよかった」「他人の期待ではなく自分の信念に従って生きればよかった」といった、人とのつながりや自分自身の生き方に関する後悔が中心なのです。
実際、緩和ケアに携わる看護師や医師たちの観察でも、同じ傾向が報告されています。日本の緩和ケア医である大津秀一医師は、1000人以上の末期患者を看取った経験から、患者たちが抱く様々な後悔を自身の著書にまとめています。その中には「健康を大切にしなかった」「たばこを止めなかった」といった健康面の後悔や、「自分のやりたいことをやらなかった」といった人生の選択に関する後悔、そして「愛する人に『ありがとう』と伝えなかった」という人間関係の後悔まで含まれています。終末期の患者さんの本音からは、人生で本当に大切なことが浮き彫りになります。
日本および海外の調査・研究・書籍が伝える共通の後悔
後悔についての調査や研究、書籍も、終末期の人々が共通して抱える後悔を明らかにしています。海外の例では、オーストラリアの緩和ケア看護師ブロニー・ウェア（Bronnie Ware）氏が終末期患者との対話を記録し、『死ぬ瞬間の5つの後悔（原題: The Top Five Regrets of the Dying）』という書籍にまとめました。ウェア氏によると、人々が人生の終わりに語る後悔で特に多かったのは次の5つです
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自分自身に正直な人生を生きる勇気を持てばよかった。（他人の期待ではなく、自分が本当に望む生き方をすればよかった）
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そんなに一生懸命働かなければよかった。（仕事に打ち込みすぎて、家族との時間を犠牲にすべきではなかった）
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自分の気持ちを素直に表現すればよかった。（言いたいことを我慢せず、愛情や感謝を伝えればよかった）
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友人と連絡を取り合い、関係を続ければよかった。（忙しさにかまけて友情を疎かにしなければよかった）
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もっと自分を幸せにしてあげればよかった。（幸せになることを自分に許し、笑いや喜びを味わえばよかった）
この5つの後悔は国や文化を超えて多くの人々に共通するテーマであり、人生の最終段階で初めて気付く人が非常に多い後悔といえます。ウェア氏の観察はあくまで経験に基づくものですが、その内容は後述する心理学研究でも裏付けられており、人は「やり残した理想」に関する後悔（例：夢を追わなかった、自分の可能性を生かせなかった）を強く抱きがちだとされています。
一方、日本にも同様の知見があります。前述の大津秀一医師の調査では25項目に及ぶ具体的な後悔が挙げられていますが、その中身を見ると海外の5つの後悔と共通する点が多いことがわかります。たとえば「仕事ばかりで趣味に時間を割かなかった」「行きたい場所に旅行しなかった」といった項目は、過度の仕事中心の生活や挑戦の不足への後悔です。また「会いたい人に会っておかなかった」や「大事な人に『ありがとう』を伝えそびれた」という項目からは、人との別れ際にもっと愛情や感謝を示せばよかったという思いが伺えます。このように、日本の調査・書籍からも「本当に大切な人との時間」や「自分らしい生き方」を大事にすべきだったという後悔が浮かび上がっており、海外の事例と共通の教訓を与えてくれます。
読者が共感しやすい人生の教訓としての後悔
以上の証言や研究から見えてくる後悔の数々は、今を生きる私たちに多くの教訓を与えてくれます。中高年の読者の皆さんにとって特に身近に感じられるであろう「後悔のテーマ」を整理すると、主に以下のようなカテゴリーにまとめられます。それぞれの教訓を踏まえ、「これからの生き方」を考えるヒントにしてみましょう。
仕事に関する後悔 – 働きすぎない生き方を
「もっと仕事ばかりせずに家族や自分のための時間を取ればよかった」という後悔は、多くの終末期患者が口にしています。特に現在の中高年世代の男性にとって、仕事中心の生活を送ってきた人は少なくありません。しかし、人生の最後に振り返ったとき、昇進や収入よりも「誰とどんな時間を過ごしたか」の方が遥かに大切だったと気付くケースが多いのです。実際にホスピス医は「出世しても、死んでしまえばそれは何の意味も持たない」という悟りに至った患者さんの例を紹介しています。働くこと自体は尊いですが、私たちも「家庭や趣味、自分自身の時間」を犠牲にしすぎていないか見直す必要があるでしょう。仕事一辺倒ではなくバランスの取れた人生を送ることが、後悔しない秘訣の一つです。
人間関係の後悔 – 家族や友人との時間を大切に
死を目前にして多くの人が最も強く悔やむのは、大切な人との関係においてやり残したことです。たとえば「長年会っていなかった友人ともっと連絡を取っておけばよかった」「子供や孫ともっと触れ合えばよかった」といった後悔です。実際、終末期の患者さんたちは「友人との友情を長年放置してしまった」ことを深く嘆くことが多いと報告されています。家族についても、「忙しさにかまけて家族サービスを後回しにした」「親に十分な親孝行や感謝を伝えられなかった」など、身近な人との時間をもっと大事にすればよかったという思いが残りがちです。私たちも日々の人間関係を振り返り、会いたい人には先延ばしせず会いに行く、照れくさがらず感謝や愛情を伝える、といった行動を心がけたいものです。人との絆こそが人生の財産であり、最後に残るのは互いに分かち合った思い出なのです。
挑戦しなかった後悔 – 「やりたいこと」を先送りしない
「自分の本当にやりたかった夢を追わなかった」「チャレンジを恐れて安全な道ばかり選んでしまった」――これは人生の終盤になってから後悔として浮上しやすいテーマです。ブロニー・ウェア氏の報告した最も多い後悔も、「自分に正直な人生を生きればよかった」つまり「他人の期待ではなく、自分のやりたいことを貫けばよかった」というものでした。現役世代のころは将来が長く感じられ、つい夢ややりたいことを「いつか時間ができたら」と先延ばしにしてしまいがちです。しかし人の寿命には限りがあり、明日同じことができる保証もありません。実際に終末期の患者さんの多くが「もっと冒険してもよかったのに」と悔やみ、自分の可能性を追求しなかったことを残念に思うといいます。趣味でも旅でも転職でも、挑戦したいことがあるなら今からでも遅くありません。 後になって「あれをやっておけばよかった」と嘆かずに済むよう、小さな一歩でも踏み出してみる価値は大いにあるでしょう。
感謝や気持ちを伝えなかった後悔 – 想いは言葉に
人間関係の中でも特に、「大切な人に感謝や愛情を伝えそびれた」ことは、死に際に多くの人が悔やむポイントです。照れやプライドから謝罪や感謝の言葉を飲み込んでしまい、その相手が先立つか自分が病に倒れてしまった後で「なぜあのとき素直に伝えなかったのか」と自責の念に駆られるケースは珍しくありません。緩和ケアの現場でも「もっと自分の気持ちを表現すればよかった」と後悔する声が聞かれています。日本のホスピス医がまとめた後悔リストの最後の項目も「愛する人に『ありがとう』と伝えなかったこと」でした。身近な人ほど感謝の気持ちや本音を伝える機会を逃しがちですが、人生の終わりに近づいてからその大切さに気付いても遅いのです。日頃から家族や友人、同僚に対して感謝していること、尊敬していること、愛していることを言葉や態度で示すようにしましょう。伝えられた相手だけでなく、自分自身も心が満たされ、人間関係の後悔を大きく減らすことができるはずです。
おわりに: 後悔のない人生のために今できること
人生の最期に語られる後悔の多くは、裏を返せば「今から行動を変えることで将来避けられる後悔」でもあります。健康をおろそかにしないこと、人との時間を大切にすること、自分の心に正直に生きること、そして感謝の気持ちを伝えること。これらはシンプルですが、忙しさの中でつい後回しにされがちな要素ではないでしょうか。100歳まで生きる人が増える一方で、明日突然人生が終わる可能性も誰にでもあります。ぜひ先人たちの声に耳を傾け、今日からの生き方を見直してみてください。「最期の瞬間に笑っていられる生き方」を、後悔の教訓から見出していきましょう。
