皆さんこんにちは、相続専門税理士の秋山です。
今日は、その場しのぎでとりあえずの遺産分割を行ってしまうと後々大変なことになりますよ、という話をします。
目次
視聴者の方からの質問
これは以前投稿した、親名義の家の改装資金をお得に贈与する方法という動画にいただいた質問なんですが、質問の内容は
「母が2016年に亡くなりました。母が亡くなる際まで住んでいた家は、既に亡くなっている父親名義の不動産で、母が生きている間も登記はずっと父のままでした。このまま登記がずっと父のままでは、後々の遺産分割協議がスムーズにいかないのではと思い、分割協議前ではあるものの、ひとまず実家の登記は1番年上である長男名義に変更しました。これが2018年のことです。」
「また長女は、母と15年以上一緒に実家で生活をしており、母の死亡後も長女が実家に住んでいます。しかし、今の実家のサイズでは、一人暮らしの長女には大きすぎるため、実家を取り壊し、土地の一部を長男から長女名義に変更したい、となった場合、これは長男から、長女への贈与ですか?母から長女への相続ですか?」
というものです。
動画の結論
この質問の回答ですが、今回の不動産の名義変更については、残念ながら長男の名義で不動産登記をしてしまった時点で、この不動産は名実ともに長男所有のものとなっています。
ですから、今回の土地の一部を長男から、長女名義に変更した場合というのは、長男から、長女への贈与になり、長女には贈与税の負担と不動産取得税、登録免許税がかかることになります。
そしてこの場合、長男所有の不動産の価値が大きければ大きいほど、長女には多額の税金が課税されることになるんです。
しかしですね、贈与税や登記費用などを払わずに、長女がこのまま今の家に住み続ける方法というのもありますので、ぜひ最後まで動画を見ていただければと思います。
今回の動画では、親が亡くなった後の不動産登記の概要について簡単に解説した上で
・今回の質問者さんたちの行動における唯一の問題点
・長女が払うことになる税金について
・今回の税金の支払いを回避するための二つの方法
これら四つのテーマに沿ってお話をしていきます。
親が亡くなった後の不動産登記の概要
まず、親が亡くなった後の不動産登記の概要についてなんですが、現状においては、いついつまでに登記を済ませなさい、といった期限は決まっていませんが、現在不動産の相続登記を義務化する方向で改正法案が審議されています。
ですので、これまで家族から土地や家を相続した人達は、相続登記には期限も決まっていないし、登記をしないからといって特に罰則もないから、登記はいずれ行えばいいや、と先延ばしにされる方が意外といらっしゃるんですね。
ですが、この相続登記というのは先延ばしにすればするほど、その先に大変な苦労が待っているんです。
具体的なデメリットの一つとしては、不動産の相続権を持つ権利者が増えすぎてしまう、ということです。
例えば、この図のような5人家族の場合、不動産の持ち主である父親が亡くなった際の相続人は、妻と子供3人の四人ですが、この際に不動産の相続登記を先延ばしにしたまま、結婚をして子供ができた長男が亡くなってしまいますと、父親名義の不動産を相続する権利者は、妻、次男、長女、長男の子供3人の、合計6人となってしまいます。
家などの相続財産は、遺産分割が完了するまでは、すべての相続人が相続分に応じて不動産を共有している状態なので、長女が今からこの土地や家を相続登記しようとすれば、全国に散らばった権利者を訪問するなどして、長女が土地や家を相続する旨を書いた遺産分割協議書に、全員分の実印と印鑑証明をもらう必要があります。
その上権利者全員が、長女の相続登記を快く認めてくれればいいのですが、権利者の人数が 増えれば増えるほど、長女の相続登記を認めないという人が現れる可能性は高くなり、不動産の権利関係はどんどんややこしくなっていきます。
質問者さん達は、こういったことを危惧されて、2018年にひとまず実家の名義を父親から、一番年上である長男に変更されたのだと思います。
しかし、この質問者さんたちの行動が、今回の事案においての一番の問題点だったんです。
今回の質問者さん達の行動における唯一の問題点
というのも、質問者さんは追加の受け答えの際に、母の死後、遺産分割協議は未だ行われておらず、遺産分割の協議が行われるまでは、登記が長男になったとしても、法定相続人全員で共有している状態である、と捉えていたとおっしゃっています。
ですが、ここに矛盾があるんですね。
そもそも亡くなった家族名義の不動産を、特定の相続人の名義で相続登記するためには、法務局での申請手続きが必要になるのですが、その際に必要となるのが、亡くなった方の戸籍謄本、または除籍謄本や、相続人の戸籍謄本、相続人の住民票の写しなどの各種書類の他に、亡くなった方が生前に遺言書を作成しており、その遺言書通りに相続する場合でしたら、遺言書を上記書類と一緒に添付しなければならず
また遺言書がなく、相続人同士の遺産分割協議によって、亡くなった方の不動産を相続登記する場合には、相続人全員が実印で押印した遺産分割協議書と、相続人全員の印鑑証明が必要になるんです。
ですので、質問者さんの場合、長男の相続登記が完了しているということは、きちんと相続人全員で遺産の分割協議をし、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押し、全員の合意の上でも、第三者から見ても、長男が正式に土地・建物の新しい所有者となったことを表しているんですね。
遺産分割協議書に限らず、契約書などの書類に実印を押すことは、非常に重要な行為になるのですが、質問者さんたちは相続人全員で遺産の分割協議をし、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押して、法務局で一旦長男の名義にしておくという申請手続きを行ったけれど、それはあくまでも自分たちの中では、ひとまずの仮の遺産分割協議であって、本当の遺産分割協議ではない、本当に自分たちの要望が反映された遺産分割協議が整うまでは、ひとまず登記が長男名義になったとしても、父親から相続した土地は相続人全員で共有している、と考えられていたのだと思います。
ですが、それは違うんですね。
ご兄弟の思いはひとまず、かもしれませんが、相続登記を行うにあたって、ひとまず仮登記という考え方はないんです。
先ほども言いましたように、きちんと相続人全員で遺産の分割協議をし、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押して行われた相続登記は、第三者から見れば、完全にきちんと成立した相続登記ですから、お父さんから相続した土地・建物については、名実ともに長男さんが新しい所有者として確定したということになるんですね。
長女さんが払うことになる税金について
ではこの場合、当初の質問者さんの希望通りに土地の一部を長男から、長女名義に変更するとした場合、どういった税金がかかるのかを見ていきましょう。
今回の場合、土地の所有者は長男さんに確定してしまっていますから、長女は長男所有の土地をもらうことになりますので、贈与税と不動産取得税、登録免許税がかかります。
不動産の贈与を受けた際の贈与税の計算は、不動産の実際の売買価格を使うのではなく、不動産の相続税評価額を用いて贈与税の計算をします。
詳しい計算は省略しますが、仮にこの土地の相続税評価額が1200万円だった場合、この1200万円から、贈与税の基礎控除である110万円を差し引き、そこから、一般贈与の税率である40%をかけて、控除額である125万円を引きますので、長女が支払う贈与税は311万円になります。
贈与税の税率には、一般贈与の税率と、特例贈与の税率がありまして、この画像のように直系尊属から、二十歳以上の子や孫がもらう贈与は若干税率が低いんですが、今回の贈与は兄弟間の贈与になりますから、特例贈与よりも税率の高い、一般贈与の税率が適用されることになります。
次に、不動産の相続登記をする際にかかる登録免許税と、不動産取得税の計算ですね。
これは不動産の固定資産税評価額に対して、以下の税率がかかります。
登録免許税は固定資産税評価額の2%、不動産取得税は3%です。
ここでも、具体的な計算の仕組みは省略しますが、相続税評価額1200万円の長男の土地に対する固定資産税評価額は、約1050万円になりますので、これで登録免許税と不動産取得税を計算しますと、登録免許税は21万円、不動産取得税は31万5000円となります。
これらを贈与税と合わせると、長女が今回の土地の登記変更で支払う合計金額は、363万5000円となり、さらにここに司法書士への手続き費用がかかることになるんですね。
今回の税金の支払いを回避する為の2つの方法
質問の内容によりますと、実家を取り壊し、土地の一部を長男から長女名義に変更したいとおっしゃっているので、先ほど計算した363万5000円全額を支払う、ということはないと思いますが、それでもやはり、長女が長男が所有している土地の一部に関して、長男から、長女名義に変更したいということでしたら、決して少くなくない金額を納めることになるでしょう。
贈与税やその他の税金を払ってでも、長女が長男の土地の一部を自分名義にしたいということでしたら、そのまま実行されても良いと思いますが、仮に長女がそんな大金を払う余裕はない、ということでしたら、次の二つの方法を取ることにより、ご自身の生活環境を維持することは可能です。
長女が、これからもお母さんと一緒に暮らしてきた家に住み続けたいという場合には
①土地を自分の名義にするのではなく、長男の名義のまま住み続けること
②長男が亡くなった後も、長女が現在の自宅に住み続けることができるよう、長男に遺言書を書いておいてもらうこと
この、2点が必要となります。
①の土地を自分の名義にするのではなく、長男名義のまま住み続けるというのは、現在の長女の置かれている状況がまさに当てはまっていまして、前半にお話しした、今回の質問者さんたちの行動における、唯一の問題点の件でお分かりいただけたと思いますが、現在の長女の状況は、自分も土地の相続権を持っている兄弟共有の土地の上に住んでいるのではなく、名実ともに、長男名義となっている土地に、長女が無償で住まわせてもらっている状態なんですね。
これは以前、子供に車や家を買ってあげても贈与税がかからないお得な方法という動画で解説した、使用貸借というものでして、親名義の車や家を子供が親名義のまま利用し続けたとしても、それは親のものを単に子供が使わせてもらっているだけですから、贈与税はかからないんです。
長女はまさに今この状態ですので、 これからも長男名義の土地の上に住み続けたとしても、贈与税などを払う必要はありません。
長女は現在、実家にかかる固定資産税や、自宅建物の現状維持に必要な修繕費等はご自身で負担されているみたいですが、その程度の金額であれば、贈与税のご心配には及ばないでしょう。
ですので、やはり長女の現状というのは、長男名義の土地に長女が無償で住まわせてもらっている、ということなんです。
しかしですね、このケースの場合、長男が亡くなった際に、この土地を相続するのは長男の家族になりますから、長女には相続権はありませんよね。
今は長男と長女の仲が良くても、長男が亡くなった後に、長男の家族から土地を売却したいから出て行って欲しい、と言われた際には長女にはどうすることもできず、出ていくしかないんですね。
そうならないために活用すべきなのが、先ほど②で説明しました、遺言書です。
長男が元気なうちに、自分が亡くなった後は長女が住んでいる敷地部分は、長女に相続させる、という長男の意志を遺言書で残してもらうことで、長女は360万円もの贈与税などを払って長男名義の土地を自分の名義に変えなくても、現在のご自宅に住み続けることができるんです。
今回の動画のまとめ
今回質問者さんから頂いた、土地の名義変更に伴うトラブル、というのはどの家庭でも起こりうることです。
皆さん遺産分割協議書に実印を押す、ということを少し軽く考えてしまい、後でまた気持ちが変わったら気軽に内容を変更すればいいや、って思われがちなんですが、遺産分割協議書というのは、いわゆる契約書なんです。
後でトラブルが起きて裁判などになった際に、相手はこう言っていた、あぁ言っていたと、いくら自分が言葉で主張しても、相手がこの遺産分割協議書を証拠として裁判所に提出すれば、一発で相手の主張が通る、非常に重要な文章なんです。
一旦作っておくか、という気軽な気持ちで遺産分割協議書を作られないよう、できれば相続に強い専門家に、このような遺産分割協議書を作っても大丈夫ですか、とアドバイスを受けるなどして作成されることをお勧めします。
皆さんも他人事とは思わずに十分に気をつけてくださいね。
以上で今回の動画は終わりです。
最後になりますが、私は日々相続専門税理士として、少しでも皆さんの相続贈与に関する悩みに寄り添いたいと思い、動画を投稿しております。
ですので、皆さんから頂いた質問コメントに対しても、どんどんお答えしていきたいと思いますので、相続贈与でお悩みの方やこれが知りたいという方は、コメント欄にコメントいただければと思います。
また今回の動画が役に立ったという方は、ぜひチャンネル登録といいねボタンをよろしくお願いします。
それでは、次回の動画でお会いしましょう、ありがとうございました。
秋山清成
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