故人の遺産総額に応じて課せられる相続税ですが、たとえば遺産のほとんどが土地のような場合、納税資金が足りなくなる可能性があります。そうしたときに検討できる「延納」の手続きについて解説します。
延納を申請できる条件
相続税の申告と納付の期限は、相続開始日(通常は故人の死亡日)から10ヶ月以内です。この期限までに納税ができていないと、「延滞税」を追加して課されることになります。
延滞税は、納期限の翌日から完納する日までの日数に応じ、最大14.6パーセントもの割合で課されてしまいますから、可能な限り、納期限までに完納した方がいいでしょう。
しかし、相続財産のほとんどが土地や建物などの固定資産といった場合、納税するための現金を用意することができないケースも生じます。そうしたときに固定資産を売却して納税資金を用意しようと思っても、10ヶ月以内に現金化することは難しいでしょう。
そのため、相続税には、納税を先延ばしにする制度があり、それが「延納」なのです。延納を許可されると、相続税を数年に分割して納付することができます。
それでは、以下に掲げる延納の利用条件を見てみましょう。
【延納の条件】
- 税額が10万円を超えること
- 納期限までに金銭で納付することが困難であること
- 担保を提供すること
- 相続税の納期限までに延納申請書を提出すること
これらの条件のうち、「担保」については、以下の種類に限定されています。
【担保の種類】
- 国債、地方債
- 社債その他の有価証券
- 土地
- 建物、立木、船舶などで保険に付したもの
- 鉄道財団、鉱業財団、工業財団など
- 保証人の保証
これら担保には、それぞれに細かい条件が付されています。たとえば土地であれば「譲渡について制限のある土地」、建物であれば「火災保険に加入していない建物」といったものが問題となるため、実際に延納申請する前に、担保に提供しようとする財産について、税務署に相談しておいた方がいいでしょう。
延納申請の手続き
こうした担保を提供するためには、たとえば土地であれば登記事項証明書や抵当権設定承諾書、印鑑証明書など個別に税務署に提出すべき書面が出てくるため、延納をする場合は、早めに準備をしておく必要があります。
もし、延納申請書の提出期限までに、担保提供関係の書類が用意できない場合には、その期限までに「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出することにより、最長で3ヶ月間提出を待ってもらうこともできます。
このような必要書類をすべて提出すると、通常は延納申請期限から3ヶ月以内に税務署から許可または却下の決定が出ます。許可される場合は「延納許可通知書」が送付され、ひとまず納税を先延ばしにすることが可能となるわけです。
ただし、延納期間がどの程度認められるのかは、提供する担保の構成等により決まり、現在は、最低5年、最高20年の延納期間が定められています。さらに、延納している間は、延滞税はかからないものの、「延納利子税」がかかる点もしましょう。
延納申請が却下された場合
さきほど、延納申請に対しては、却下される場合もあると説明しましたが、却下された場合、以下の税額が附帯税として加算されることになります。
- 納期限の翌日から却下の日までの期間の利子税
- 却下の日の翌日から完納の日までの期間の延滞税
したがって、きちんと担保を用意できるなど、許可を受けられる目処がある程度ついた状態で延納申請をしておかないと、延納申請をしたことで、かえって税額の負担が重たくなる可能性があります。
なお、利子税も、やはり担保の構成等に応じて変動し、現在は最高で年6パーセントとなっています。延滞税よりは割合は低いですが、やはり早く納税しておいた方がトータルの納税額は少なくなります。