相続財産の評価
故人の遺産について財産評価を行うことで相続税の課税価格等が決定します。故人の財産の大部分は金融資産と不動産です。預金や株式などの金融資産は原則亡くなった日の残高や時価がそのまま評価額になる一方、土地や建造物などの不動産は相続税特有の方法で評価するので多少複雑です。
預金の評価額
預金は亡くなった日(相続発生時)の残高に、その時点で解約した場合に支払われることになる金額が評価額になります。
上場株式の評価額
以下の4つのうち最も低くなるものが上場株式の評価額になります。
- 死亡日の終値 (死亡日に取引がない日は一番近い日の最終価格)
- 死亡日の月の毎日の終値の月平均値
- 死亡日の前月の毎日の終値の月平均値
- 死亡日の前々月の毎日の終値の月平均値
非上場株式の評価額
取引相場のない株式は、相続する日とによって評価方法が異なります。
原則的評価方式
株式を相続した人が会社に対する経営的支配力を持っている株主である場合は原則的評価方式で評価します。
原則的評価方式はさらに会社の規模で評価額を計算します。大会社であれば類似業種比準方式、小さい会社であれば純資産価額方式、中くらいの会社であれば両者を併用する併用方式をとります。
特例的評価方式(配当還元方式)
株式を相続した人が会社に対する経営的支配力を持っていない株主は特例的評価方式(配当還元方式)で評価します。
これは会社の規模にかかわらず、直近2年間の配当金額を元にして評価額を決定します。
参考URL
参考 取引相場のない株式の評価国税庁土地の評価額
土地の評価額を計算するには、まず国税庁の評価倍率表で自宅の町名を探し、宅地の欄が「路線」と書かれていたら路線評価方式、「1.0」などの倍率が書かれていたら倍率方式で土地価格を評価することになります。
路線価方式
市街地にある宅地はその宅地が面している道路につけられた路線価に、面積をかけて評価額を求めます。
路線価はその道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額のことです。
土地の形がいびつであったり、間口が狭い場合もあるので、間口狭小補正率で調整を行います。
倍率方式
市街地から離れた地域の宅地は固定資産税評価額に倍率をかけて評価額を求めます。
小規模宅地等の特例
故人の自宅や事業所などの土地については、一定の面積までは評価額が8割引または5割になる小規模宅地等の特例という決まりがあります。
相続税の申告書の提出
小規模宅地等の特例は自動的に適用されるわけではなく、申告しなければ適用されません。
適用を受けることを記載した明細書を相続税の申告書と一緒に提出するので、相続税の申告期限である死後10ヶ月以内に手続きしなければなりません。
遺産分割協議がまとまらない場合
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合でも、特例の対象となる土地の相続さえ決まっていれば、特例を申請することができます。(一部分割)
土地の相続もまとまっていない場合は、申告期限後3年以内の分割見込書を提出し、相続税を適用前の金額で納めます。3年以内に遺産分割協議がまとまったときに、特例の適用を受け、納め過ぎた税金が払い戻しが受けられます。
参考 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)国税庁相続税の計算
具体的な相続税の計算は
- 財産の評価額を合計
- 控除できるものを差し引き
- 相続税の基礎控除額を差し引き
- 相続人ごとの法定相続分にあん分した額に課税
財産の評価額を合計する
相続税の対象は相続財産だけでなく以下のものが対象です。
- 相続財産
- みなし相続財産(死亡保険金・退職金)
- 生前贈与財産の一部(死亡日から3年以内の生前贈与・相続時精算課税制度)
控除できるものを差し引く
- 小規模宅地等特例
- 非課税財産
- 債務・葬式費用・寄付金
基礎控除額(非課税枠)を差し引く
課税価格の合計額から基礎控除額を引き、課税遺産総額を算出します。基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人の人数です。例えば、法定相続人が一人の場合は3,600万円、5人いた場合は6,000万円が基礎控除額の金額になります。
なお、課税価格の合計額が基礎控除額より少ない(基礎控除額を差し引くと0以下になる)ときは、相続税の申告は必要ありません。
課税遺産総額を法定相続分によりあん分した額に相続税
相続税は課税遺産総額に対して税率をかけるのではなく、法定相続分で分けたと仮定して、相続人それぞれの法定相続分の額に対して相続税を課します。したがって、遺言などで違う相続分が指定されていても、相続税は法定相続分で計算します。
相続税は相続人の取得金額に応じた金額に応じて税率が変わってきます。
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の加減措置
相続税にはある要件を満たせば減額や控除を受けられるなど多くの軽減措置が用意されていますが、一方で相続税が加算されることもあります。
配偶者の税額軽減
配偶者は1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のうち、どちらか大きい金額までは相続税はかからないという制度です。
参考 配偶者の税額の軽減国税庁小規模宅地等の特例
故人の自宅や事業所などの土地は一定の面積まで評価額が8割または5割減額されます。
参考 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)国税庁贈与税額控除
故人から相続開始前3年以内に生前贈与で財産をもらったときに納めた贈与税は、相続税から差し引く事ができます。
加算する贈与財産の範囲
被相続人か生前に贈与された財産のうち相続開始前3年以内に贈与されたものは、贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算します。
加算しない贈与財産の範囲
生前贈与であっても、次の財産については加算する必要はありません。
- 贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除に相当する金額
- 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
- 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
未成年者控除・障害者控除
未成年者の税額控除
相続人が未成年のときは相続税の額から一定の額を差し引きます。条件を満たした未成年者の控除額は、その未成年が満20歳になるまでの年数1年につき10万円で計算します。年数計算で1年未満の期間がある場合は切り上げて計算します。
参考 未成年者の税額控除国税庁障害者控除
相続人が85歳未満の障害者のときは相続税の額から一定の額を差し引きます。控除額は未成年者と同じように、満85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は、1年につき20万円)です。
参考URL:障害者の税額控除 国税庁
相次相続控除
10年以内に2回以上の相続があった場合には、1回目のときにかかった相続税の一部を2回目の相続税から差し引くことができます。控除される税額は前回の相続で課税された相続税のうち、1年につき10%の割合で逓減した後の金額が控除されます。
参考 相次相続控除国税庁相続税の2割加算
故人の配偶者及び一親等の血族以外の人である場合は、相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
代襲相続人の場合
相続人が死亡し、代襲相続人が相続するときには2割加算はされません。
養子の場合
故人の子供が養子の場合でも、一親等の血族にあたり2割加算はされません。
ただし、養子がもともと故人の孫であった場合には例外的に2割加算の対象となります。
参考 相続税額の2割加算国税庁相続税申告・納付の手続き
相続税の申告の注意
相続税は基礎控除額を超えない限りは申告する必要はありませんが、配偶者控除など軽減措置を使ってはじめて基礎控除額を下回るときは申告する必要があります。
相続税の申告書の手続き
相続税の申告書は、相続人など申告義務のある人全員が共同で1通を作成します。
提出先は故人の死亡時の住所地の所轄税務署で、期限は相続の開始があったことを知った日から10ヶ月以内です。
相続税の納付方法
納付期限も申告の手続きと同様に10ヶ月以内です。相続税の納付は税務署だけでなく金融機関や郵便局の窓口でも可能です。
相続税の納付は金銭で一括払いが原則ですが、現金一括での納付が困難な場合は、分割払いの延納と物で支払う物納という納税方法をとることもできます。
延納
相続税の納付を分割払いで行えるのが延納です。延納の許可を受けるには、有価証券、土地、建物などの財産を担保として提供する必要があります。担保として提供する財産は、遺産に限らず元々の財産や第三者の財産でも可能ですが、共有財産の持ち分や未分割のままの遺産は担保にすることができません。
なお、延納税額が100万円未満で延納期間が3年以下の場合は担保が不要です。
延納の期間は遺産に占める不動産の割合ごとに変わり、最高20年間で、期間中は利息である利子税もかかります。
物納
相続税の納付を物で支払うことができるのが物納です。物納が許可されるのは、現金での納付が延納でも困難な場合に限り認められます。物納できる財産は財産の種類ごとに順位が決まっており、
- 国債、地方債、不動産、船舶
- 社債、株式、証券投資信託または貸付信託の受益証券
- 動産
財産の収納価額は原則として相続税の課税価格計算の基礎となった財産の価額になります。したがって、小規模宅地などについての特例の適用を受けた相続財産を物納する場合は、適用後の金額となります。
参考 相続税の物納国税庁延滞税
相続税の納付期限を1日でも過ぎてしまうと、相続税に加え、利息である延滞税を払う義務が発生します。
延滞税の割合
納期限の翌日から2月を経過する日まで「年7.3%」、さらにそれ以後は「年14.6%」に割合が増します。
延滞前の計算期間の特例
次の場合には延滞税の計算期間に含めないという特例があります
- 期限内申告書が提出されていて、法定申告期限後1年を経過してから修正申告又は更生があったとき
- 期限後申告書が提出されていて、その申告書提出後1年を経過してから修正申告又は更生があったとき
修正申告、更生の請求
相続税の申告納税を済ませた後で、間違いに気づいたら修正申告や更生の請求の手続きを行う必要があります。
修正申告
納付した相続税が本来納めるべき相続税より少なかった場合には修正申告を行います。これは期限はないものの、延滞税に加え過少申告加算税(10%もしくは15%)がかかる場合もあるので、速やかに手続を済ませておく必要があります。
不正に相続税を逃れようとした場合
意図的に財産を隠そうとしたなど、不正に相続税を逃れようと認められた場合は、延滞税の計算期間1年間の特例から除外され、遅れた日数の全期間分の延滞税を納めなければなりません。さらに、制裁金も過少申告加算税(10%または15%)ではなく重加算税(35%)が課せられます。
更生の請求
納付した相続税が本来納めるべき相続税よりも多く納めすぎていた場合には更生の請求を行い、納め過ぎた相続税の還付を受けられます。更生の請求の期限は相続税の申告期限から5年以内に行う必要があります。