皆さんこんにちは。相続専門税理士の秋山です。
今日は、親の預金が取り込まれた際に他の相続人が取るべき行動、という話をします。
以前、「親の預金の取り込みは税務調査でばれますよ」という動画を投稿したところ、兄弟の預金の取り込みにより、現在進行形で相続税の申告に支障をきたしている、という方達からこういった内容のメッセージを多数いただきました。
以前は兄弟仲は良好でしたが、親の相続の発生とともに、兄弟による預金の取り込みが発覚し、兄弟仲は悪化しました。
そのため現状では、親の相続税の申告や納税を行うための正確な財産状況が、親と同居していた兄弟にしか分からず、詳細な内容も教えてもらえません。
このような状況の中で、亡くなった親には果たして相続税がかかるのか、また相続税がかかる場合、どのように親の財産を把握し、相続税の申告を行えばいいのでしょうか?
確かに、親と同居をしていた兄妹姉妹が、親の預金の取り込みや、財産の独り占めなどの行為を行っていた場合、自分が取り込んだ預金額がバレないように、親と離れて暮らしていた兄弟たちに対して、親の財産額の全てを明らかにしないということは、どの家庭でも行われていることではもちろんありませんが、決して珍しい話ではありません。
では先ほど紹介したケースのように、親と同居をしていた兄弟が親の財産を取り込み、明らかにしない場合、親の財産額を正確に把握できない相続人たちは、一体どうやって相続税の申告を行えばいいのでしょうか。
そこで今回の動画ではまず最初に、具体的に親の預金の取り込みというのは、どういった行為が該当するのか、という部分に触れ、親の預金の取り込みが行われた際に、他の相続人が取るべき行動を四つのステップに分けて解説します。
その上で、親の預金を取り込んだ家族に対しては、法的措置が取れるのか?という部分について解説し、最後に税務署が取り込みの調査をしてくれない家庭の、相続人が取るべき取り込み防止策についてお話しします。
目次
親の預金の取り込みというのはどういった行為が該当するのか
一般的に、親の預金の取り込みになるのか・ならないのか、という判断というのは、このスライドのように、親の生活費や介護・医療のために使ったお金、親と住んでいる土地の固定資産税や、保険料の支払いに使ったお金、生活するために必要な建物のリフォーム代、それと、親の介護などのために仕事を辞めた家族自身の生活費や、税金・保険料、このように親のために親の預金を使った場合でしたら、これらの行為は親の預金の取り込みとはなりません。
ただし、将来他の相続人から疑われないためにも、領収書などの証拠はきっちりと保管するようにしておいてください。
では、どういった行為が親の預金の取り込みになるのかと言いますと、親の預金を自分たちの蓄えにしたり、自分たちの車を買い替えたり、と言ったように自分の私利私欲の為に親の預金を使っていたのでしたら、これは親の預金の取り込みと言えるでしょう。
親の預金を取り込む側というのは、自分たちは実家を守って親の面倒を見てきたんだから、親の財産のほとんどを生前に貰って何が悪いの?当然の権利でしょ、という考え方の人もいらっしゃいますし、他にも私がこれまで見てきた実例では、自分が勤めている会社・自分が営んでいる事業がうまくいっておらず、兄弟たちには悪いけれど、家族の生活のために仕方なく親の預金を取り込んでしまった、というようなケースもありました。
この二つの家庭を見ていただければわかるように、親の預金の取り込みというのは、どこの家庭でも起こりうる問題なんですね。
ですので、親の預金の取り込みに関しては、家は兄弟仲がいいから関係ないよねという認識は改めていただき、自分たち家族にも、もしかしたら親の預金の取り込み問題が発生するかもしれない、そしてその際にはどうやって対処すればよいのか、という部分についてこの動画を通して、きちんと理解していただければと思います。
親の預金が取り込まれた際に他の相続人が取るべき行動
ではここからはいよいよ、このスライドの家族をモデルケースとしまして、親と同居していた兄弟が預金の取り込みを行い 財産内容を明かさない場合、他の相続人たちは具体的にどのような行動を取れば良いのか、という部分について四つのステップに分けて見ていきましょう。
①相続発生後10ヵ月以内に親の財産をざっくりと把握し相続税の申告をする
まず親の預金が取り込まれた際に、相続人の方にとっていただきたい一つ目の手順としては、親御さんが亡くなった日から10ヶ月以内に親の財産をざっくりと把握し、相続税の申告をするというものです。
よくお客さんから、相続税の申告って相続人全員が連名で行わないといけないんじゃないですか?
という質問が来るんですが、実は相続税の申告においてそういった決まりはありません。
むしろ本来であれば、相続税の申告というのは相続人それぞれが申告するのが原則です。
ですが同じ内容の申告をするために各相続人が動くとなると、書類を揃えたりする手間が必要以上にかかりますよね。
なので、それらの手間を減らすために、連名での申告が一般的になっているんです。
なので相続人間で揉めている場合には、まず自分で調べられる範囲で、亡くなった方の財産を調べ、自分だけの名前もしくは揉めていない相続人同士で、各自の法定相続分に応じた金額で申告書を提出すればいいんですね。
では、親と同居していない長女と次男が、自力で調べることができる財産にはどんなものがあるのかといいますと、それは土地や建物などの不動産と、預貯金、有価証券などの金融資産です。
詳しい調べ方は、こちらの動画で詳細に解説していますので、今回はざっくりとお話しします。
まず亡くなった方が所有していた不動産に関しては、親の不動産がどこの市町村にあるのかということが分かっていれば、その不動産の所在地にある市役所で手続きを行うことで、不動産の種類や面積などの情報が記載されている、名寄帳を手に入れることが出来ます。
また、預貯金や有価証券に関しては、金融機関で手続きを行うことで被相続人の亡くなった当日の残高証明を取り寄せることができますので、まずは亡くなった方の生活圏内にある大手銀行・地銀や、ゆうちょなどをあたってみるのが良いでしょう。
銀行は、預金者が亡くなったことを知れば口座を凍結しますので、親の死亡後さらにお金が取り込まれることをある程度、阻止することができるんですね。
ではここまでで、把握した親の財産をどのように評価して、相続税のおおまかな概算を出せば良いのかと言いますと、まず預貯金や有価証券の評価は簡単ですね。
預貯金に関しては残高証明書に書いてある、親が亡くなった当日時点の預貯金額が申告に記載する金額となります。
有価証券は亡くなった日の終値か、亡くなった月の平均価格か、前月の平均価格、前々月の平均価格のうちの、一番低い価格で評価をします。
不動産については少し複雑なんですが、市役所で入手できる名寄帳があれば、こちらの動画(「相続の際の不動産評価額を簡単に計算する方法!」)を参考にしていただくことで、自身でざっくりとした概算評価は出来ますし、専門家に依頼すれば、きちんとした正確な評価をしてくれます。
こういったふうに、取り込みを行った兄妹姉妹から、財産情報がすべて開示されない時には、ざっくりとでもいいので亡くなった方の大まかな財産を把握し、概算の評価をしていただき、親御さんが亡くなった日から10ヶ月以内に、相続税を申告・納税されることをお勧めします。
その際、例え把握できた母親の財産が、この家族のように相続税の基礎控除、4800万円を下回っていたとしても、長男が取り込んだ金額がわからない以上、きちんと相続税の申告は行なっておいてくださいね。
といいますのも、後々長男の取り込んでいた預金額が判明した際、本当は相続税の基礎控除を超えており、相続税の申告も納税も必要だった、となった場合、事前に申告を行っていれば、過少申告加算税という比較的軽いペナルティで済みますが、申告を行っていない場合には、無申告加算税という重いペナルティを課されることになります。
ですので、ざっくりと把握できた親の財産額が、たとえ相続税の基礎控除を超えていなかったとしても、相続税の申告だけは忘れずに提出してください。
またその際、申告書に記載する財産はどのように割り振れば良いのか、ですが、仮にこの3人の兄弟仲が良ければ「遺産分割協議」という、母親の財産を誰が相続するのか、といった話し合いを行い、全員が納得のいく割合で遺産の分割を行うことができるんですが、今回の家庭のように相続人間で争っており、遺産分割協議ができないという場合、各相続人が取る行動としましては、現在分かっている範囲の財産を法定相続分という、民法で規定されている割合で財産を分けたとして相続税を計算し、申告と納税を行う必要があります。
この部分の詳しい解説は、こちらの動画にて解説しておりますので今回は省略しますね。
また申告の際に忘れてはいけないのが、申告期限後3年以内の分割見込書です。
相続人間で遺産の分け方が決まっていない場合、相続人全員での申告でも、各相続人ごとの申告でも、この申告期限後3年以内の分割見込み書を相続税の申告書と一緒に提出しなければ、いけません。
でないと3年以内に遺産分割がまとまった際に、配偶者の税額軽減や、小規模宅地等の特例などの、相続税のお得な特例が使えません。
②相続税の申告の際に親の預金の取り込みを税務署に通報する
次に、親の預金の取り込みが行われた際に、他の相続人が取るべき行動の二つ目は、相続税の申告の際に親の預金の取り込みを税務署に通報する、というものです。
前回の動画に対するコメントで、兄弟が親の預金の取り込みを行っていた場合、税務署に通報さえすれば、親が存命中であっても税務調査官はその家庭の調査を行い、兄弟が取り込んでいた親の預金額を解明してくれる、と、このように思われている方が多かったのですが、大前提として、税務署に通報をして動いてもらうためには、親御さんの相続が発生している必要があります。
なぜなら税務署には、相続税の申告期限よりも前に、各家庭の調査をする権限がないからです。
そのため、親御さんが生きておられる間に
「親の預金の取り込みがありました。うちの親の財産額について調査してください。」
と税務署に通報したとしても、税務署が動くのは相続税の申告期限が到来してから、ということになります。
ですので、長女や次男は母親の財産をざっくりと把握し、相続税の申告書を提出するこのタイミングで、税務署に対して親の預金の取り込みの通報を行えばいいんですね。
すると通報を受けた税務署は、お母さんが亡くなってから10ヶ月という申告期限の到来後に、この家庭の調査に乗り出します。
これはなにも、相続人が可哀想だからというわけではありません。
各家庭内における取り込みを容認してしまうと、事前に親の預金を取り込み、親の財産を不当に減少させることで、相続税をごまかすことが可能になってしまいますよね。
結果、まともに相続税を支払う人が誰もいなくなります。
そのため税務署は、通報があれば積極的にその家庭を調査することになるんです。
この、税務署がどうやって預金の取り込みを追求するのか、という部分については、以前の動画(「親の預金の取り込みは税務調査でバレますよ!」)で詳しく解説していますのでそちらをご覧になってみて下さい。
そして調査の結果、調査官が把握した取り込み額が1500万円だったとします。
もちろん、長女や次男は、長男が取り込んでいた1500万円という金額を把握できていなかったわけですから、その分の申告をしていません。
ですから調査官は、長女と次男に対し相続税の修正申告書を出してもらうため、お母さんの預金が1500万円漏れていましたので、相続財産に計上して改めて申告し直してください、という具体的な取り込み金額を教えることになるんですね。
このようにして、長女と次男は、長男が取り込んだ預金額を知ることになるんですね。
③判明した取り込み額に従い、正しい金額を反映させた修正申告を行う
あとは長女と次男が、取り込まれた金額も含めたお母さんの全財産について、長男と改めて話し合いをし、遺産分割の話し合いがまとまれば、それぞれが正しい母親の財産額と、各相続人の相続額を反映した修正申告を行い、過少申告加算税や延滞税を支払えば、遺産の分割と税金の問題は解決です。
ですが仮に、長男が取り込んだ預金が白日のもとに晒され、再び3人での遺産分割協議が行われたとしても、長男がまだ母親の遺産の大部分は、親の世話をしてきた自分のものだ、というふうに主張し、遺産分割協議がまとまらない場合にはどうなるでしょうか。
この場合、長女と次男は自分達の申告だけ、ただし母親の財産額を反映させ、各自の法定相続分に応じて、修正申告を行い、過少申告加算税や延滞税を支払えば一旦税金問題は解決。
そしてそれが終われば、取り込んだ長男との交渉です。
④取り込んだ者との交渉・交渉が纏まらなければ訴訟
そしてこの際に、兄弟間での交渉がまとまらなければ、最終手段として調停・訴訟という流れになるんですが、ここの論点は弁護士の領域になるので、さらっとだけ説明しますね。
親の預金を取り込まれてしまった長女と次男は、取り込んだ長男に対し、不当に引き出した金銭の返還を、「不当利得返還請求権」または「不法行為に基づく損害賠償請求権」などにより、請求をしていくことになります。
取り込んだ家族に対しては法的措置が取れるのか
また、視聴者の方から「親の預金の取り込みは犯罪ではないんですか?」という質問を受けることがありますが、家族間の問題であることから、親子間の窃盗や横領は、刑が免除されることになっています。
刑法は「法は家庭に入らず」ということで、家庭内の問題は家庭内で解決しなさい、という趣旨で定められているんです。
そのため、「うちの家族が親の預金を無断で取り込みをしました」と警察に通報したとしても、警察は捜査をしてくれない、というのが実情です。
税務署が調査をしてくれない家庭の取り込み防止策
また、これは以前の預金の取り込みに関する動画でもお話したんですが、今回のケースのように、税務署の調査権限を利用して家族に取り込まれた親の預金額を把握する、というやり方は、全家庭において使えるわけではありません。
税務署に通報をして動いてもらうためには、亡くなられた親御さんの財産が、相続税の基礎控除を超えている必要があります。
税務署は相手が相続税の課税対象でなければ、税金が取れませんから、相続人の方がどれだけ真剣に「取り込まれた親の財産を調べてくれ」と訴えたところで、税務署は動いてはくれません。
この場合に相続人の方が取れる行動としては、親の生前でしたら、家族以外の第三者を成年後見人として立て、預金の取り込みを防止するという方法があります。
親が認知症になったり、病気で意識が朦朧としているなど、自分で法律行為ができなくなった場合、家族が裁判所に成年後見の申立をし、弁護士や司法書士などの専門職を成年後見人として選任することができます。
そうしますと、親の預金は成年後見人の方が管理するようになるんですね。
そのため、親の預金を管理してきた子供は、勝手に親のお金を使い込むと言うことができなくなります。
ですが、成年後見制度を利用した場合、成年被後見人であるお母さんが亡くなるまで、選任された成年後見人の方にはずっと報酬の支払いが発生するといった、金銭面でのデメリットがあることも覚えておいてください。
また親が亡くなった後での、家族の預金の取り込みを防止したいという場合でしたら、冒頭でもお話したように、これ以上の取り込み被害を抑えるために、親の預金口座があるであろう銀行に出向いて口座の凍結を行うことが大事です。
さらにその上で、取り込んだ家族に対して補償を請求したいという場合は、相続人であることを証明する戸籍謄本を持って行き、親御さんの過去の口座の取引履歴を復元してもらい、用途がはっきりしない怪しい出金等を抽出します。
ここまでは簡単にできますが、さてここからが大変です。
不明な出金を抽出した後、その内容をもとに預金を取り込んだ相手を追求するんですが、相手も当然ながら素直には認めません。
それではということで、弁護士という専門家に任せれば作業の手間は省けますが、代わりに高額な費用が必要となります。
親御さんの財産が取り込まれたと思われる金額を含めたとしても、相続税の基礎控除以下で税務署に動いてもらうことが見込めないのであれば、ここまでの説明を聞いた上で、それでも相手を追求するのか・しないのかを決める必要があります。
途中で辞めるのであれば、労力とお金が無駄になってしまいますから、最初からしない方がマシかもしれませんね。
今回の動画のまとめ
それでは今回の動画のまとめです。
親の預金の取り込みというのは、どこの家でも起こりうる問題です。
もし将来的に親の預金の取り込み問題が発生しそうな場合には、税務署が取り込むの調査をしてくれるかどうかの境界線として、亡くなった方の財産額が密接に絡んできますので、今のうちから、うちの親の相続が発生した際には、親の財産は相続税の基礎控除を超えそうか、こういった部分を、今回の動画を参考にざっくりと把握してもらい、適切な対処をとっていただきたいと思います。
また現在進行形で、親の預金の取り組みが行われているという場合には、今回紹介した
①親の財産額を把握する
②相続税の申告の際に親の預金の取り込みを税務署に通報する
③判明した取り込み額に従い、正しい金額を反映させた修正申告を行う
④その上で、取り込んだものとの交渉。交渉がまとまらなければ、最終手段として調停・訴訟
という四つのステップに沿って行動して頂ければと思います。
以上で今回の動画は終わりです。
今回の動画の他にも、「税務調査官は亡くなった方や、相続人の通帳のここを見ます」という動画なども投稿しておりますので、これらの内容にも興味があるという方は、ぜひ画面上のサムネイルから動画をご覧になってみてください。
それでは次回の動画でお会いしましょう、最後までご視聴いただきありがとうございました。
秋山清成
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