家族や身内(祖父母・曾祖父母など)の死に直面したとき、その事実を子どもにどう伝えればいいのでしょうか。大人でも「死」は宗教観や人生観によって意味合いが異なり、理解するのが難しい概念です。
特に幼い子どもに「死」を説明するのは容易ではありませんが、だからといって何も伝えずにいると、子どもの心により大きな混乱や不安を残してしまいます。大切な人の死を事実として伝え、子どもの悲しみに寄り添ったグリーフケア(悲嘆ケア)を行うことが重要です。
本記事では、未就学の幼児から小学生、中高生までの年齢別に子どもへの「死」の伝え方や心のケアの方法を解説します。発達段階ごとの子どもの理解の違いを踏まえ、各年齢に適した説明と言葉がけ、そして共通するグリーフケアのポイントや必要に応じた専門家への相談について紹介します。
幼児への伝え方とケア
幼児期は「死」という抽象的な概念を理解するのが難しいため、子どもに祖父母など身内の死を伝えるのは容易ではありません。しかし、適切に伝えることで子どもが後々大きな混乱や不安を抱えずに済みます。
この章では、幼児期の子どもに適切な言葉で死を伝える方法と、その後のケアについて具体的に説明します。
曖昧にせず具体的に「死」を伝える
幼児はまだ「死」を十分理解できず、「眠っている」「遠くへ行った」といった曖昧な表現では誤解をしてしまいます。
そのため、「亡くなった」「もう会えない」とはっきり伝え、死によって体が動かなくなり、息をしなくなり、ご飯も食べられないことを具体的に説明します。子どもが理解できる範囲で、穏やかに真実を伝えることが大切です。
何度も同じ質問をする子どもへの対応
幼児は亡くなった身内について何度も同じ質問をすることがあります。
これは情報を確認して理解しようとする自然なプロセスなので、保護者はその都度穏やかに、「もう亡くなってしまったから会えないの」と繰り返し伝え、根気よく寄り添いましょう。
幼児の罪悪感や不安へのケア
幼児は自分の言動が身内の死を引き起こしたのではないかと罪悪感を抱くことがあります。
そのような時には「あなたのせいじゃない」と明確に伝え、不安を取り除いてあげましょう。安心させるためのスキンシップや、穏やかな日常生活を維持することも効果的です。
葬儀への参加と子どもの心の準備
葬儀に幼児を無理に参加させる必要はありません。参加させる場合は「怖い場所ではなく、お別れをする場所」であることを事前に説明し、子どもの様子を見ながら途中で退出できる柔軟な対応を心がけます。
参列しない場合でも、写真に手を合わせたり、お花を供えるなど子どもなりのお別れをさせてあげると良いでしょう。

絵本を使った命の理解
幼児には死をテーマにした絵本を活用し、「悲しいけれど大切な人とお別れすること」を理解する機会を与えることが有効です。故人の思い出を家族で語るなど日常的に取り入れることで、子どもの心を穏やかに支えられます。
幼児に死を伝える際に最も重要なのは、曖昧さを避け、誠実に伝えることです。そして、子どもが抱える罪悪感や不安を敏感に察知し、愛情深く寄り添うことが大切です。ゆっくりとした対話と日常生活の安定が、幼い子どもの心を守る最善の方法になります。
小学生への伝え方とケア
小学生になると、死というものを徐々に現実的に理解できるようになりますが、完全に受け入れるまでには支援が必要です。疑問や不安を持ちやすいこの時期の子どもに対し、どのように伝えればよいのでしょうか。
この章では、小学生の子どもへの適切な死の伝え方と、心のケアの具体的なポイントをご紹介します。
質問に正直に答える
小学生になると「死」を理解し始める一方で、詳細なことに興味を示し、「亡くなった人はどうなるの?」といった疑問を持つことがあります。大人がドキッとする質問にも誠実に答え、正直で安心できるコミュニケーションを取ることが重要です。
一人ではないことを伝える
子どもは大人が悲しむ姿を見ることで、「死」が特別で現実的な出来事であると理解します。悲しみを隠さず、「悲しいときは一緒に悲しもう」と伝えることで子どもの心を支え、「一人ではない」と感じさせることができます。
死への不安を和らげる
子どもが「自分や家族も死ぬのか」と不安を感じたら、「生き物はいつか死ぬけれど、まだずっと先のこと」と具体的に説明して不安を和らげます。死が誰にでも訪れる自然な現象であることを伝えることが重要です。
葬儀参加と日常生活への配慮
小学生は葬儀の意味を理解できるため、可能であれば参列させて最後のお別れの機会を与えましょう。葬儀後は、学校生活にも配慮し、担任の先生に状況を伝えて情緒不安定な時期を柔軟にサポートしてもらうことが大切です。
また、子どもを参列させる場合、葬儀はできるだけ落ち着いた雰囲気で行えるとより安心です。親族のみでゆっくりと故人と向き合える家族葬なら、感情の整理をしやすく、子どもの心の負担を抑えられます。
たとえば「小さなお葬式」の小さな家族葬プランでは、小規模ながら心のこもったお別れができるため、子どもにとっても大切な記憶として残るでしょう。


故人を偲ぶ習慣と悲しみへの寄り添い
子どもが故人を偲べるように、写真や手紙などを活用した日常的な習慣を作ります。子どもの感情的な態度変化に気づいたら、背景にある悲しみに目を向けて受け止め、安心して悲しみを表現できる環境を整えることが大切です。
小学生にとって身内の死は強い不安を伴います。大人が正直に悲しみを共有し、「誰でもいつか死ぬ」ことを穏やかに伝えることで、子どもは安心感を得ます。日常生活に注意深く配慮しながら、子ども自身の悲しみのペースを尊重し、サポートを継続しましょう。
中高生への伝え方とケア
中学生や高校生になると、死という現実を理屈では理解できても、感情面での整理は難しいことが多いものです。また、思春期特有の複雑な感情が絡み、親には打ち明けづらいこともあります。
この章では、思春期特有の心理を踏まえた死の伝え方や、中高生に適した心のケア方法について解説します。
思春期特有の心理を尊重する
中高生は、悲しみや辛さを家族に素直に表現できないことがあります。保護者は無理に聞き出そうとせず、「話したくなったらいつでも聞くよ」と声かけをし、子どもが自分のペースで気持ちを表現できる環境を整えることが大切です。
信頼できる第三者の協力を仰ぐ
中高生にとって、親以外の信頼できる大人(学校の先生、親戚の叔父叔母など)との対話が心の支えになります。周囲の協力を仰ぎ、子どもが安心して悩みを打ち明けられる場を提供しましょう。
怒りや複雑な感情を肯定する
思春期の子どもは、大切な人の死に対し「怒り」や「後悔」など複雑な感情を抱くことがあります。これらは自然な反応であり、「そんな気持ちになってもいいんだよ」と肯定してあげることで、子どもは罪悪感を持たずに感情を表現できます。
哲学的な問いに一緒に向き合う
中高生は死や生きる意味について深い問いを持つことがあります。明確な答えを無理に出そうとせず、「難しいけれど一緒に考えよう」と伝える姿勢が子どもの支えになります。子どもの自尊心を尊重しながら寄り添うことが重要です。
危険行動に注意して長期的なケアを行う
身内の死をきっかけに危険な行動に走る子もいるため、普段との違いに気づいたら注意深く見守り、必要なら専門家に相談しましょう。また、悲しみはすぐには癒えないことを理解し、長期的にゆっくりと見守りながら、悲しみと共存していく力を育てる支援を続けます。
中高生への対応では、子どもが持つ感情や問いを否定せず、一緒に向き合う姿勢が何より大切です。親だけでなく、信頼できる第三者とも協力し、子どもが自分のペースで心の整理を進められる環境を整えましょう。焦らず長期的に見守ることで、子どもは悲しみと共存する力を身につけていきます。
グリーフケアの実践ポイント
年齢に関係なく、子どもが身内の死という現実を受け入れ、心の回復を図るためには共通したケアの方法があります。悲しみに直面した子どもたちに対して、大人がどのように接するのが良いのでしょうか。
この章では、あらゆる年齢の子どもに共通するグリーフケアの基本を、実践しやすいポイントにまとめてご紹介します。
子どもの気持ちに寄り添う
子どもには死について誠実かつ率直に伝えることが重要です。同時に、悲しみや怒りなど子どものどんな感情も否定せず、優しく受け止めてあげることが必要です。子どもが安心して感情を表現できる環境を作りましょう。
家族を亡くした人にかける言葉と支え方|寄り添うためのポイント
日常生活の安定を保つ
身近な人を亡くした直後こそ、普段通りの食事や睡眠など、安定した日常生活を維持することが子どもの安心感を支えます。規則正しい生活のリズムを守り、日常の習慣やルールを崩さないように気をつけましょう。
故人を偲ぶ時間を共有する
家族で故人の思い出を語り合ったり、写真を見たり、故人を偲ぶ時間を設けましょう。命日や誕生日など、故人を感じられる機会を作ることで、子どもは悲しみを健全に整理し、徐々に前を向いて歩めるようになります。
必要に応じて周囲や専門家の支援を得る
家族だけで問題を抱え込まず、学校の先生や地域の支援団体、心理の専門家の力を借りましょう。子どもの悲しみが深刻な場合は、早めに専門家に相談することが重要です。支える大人自身も、周囲に支援を求めることが大切です。
子どもが悲嘆の中で前に進むためには、大人が正直で誠実に関わり、日常生活を丁寧に守りながら、故人との思い出を大切に共有することが重要です。そして、問題を一人で抱え込まず、周囲や専門家の協力を柔軟に活用しましょう。こうした総合的なケアが、子どもの心を守り、健やかな回復へと導きます。
必要に応じた専門家への相談
どんなに気を配っていても、場合によっては子どもの悲嘆が深刻化し、専門家の助けが必要となることがあります。次のようなケースでは、早めに専門機関へ相談することを検討してください。
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家族の死から相当の時間が経っても子どもが日常生活に戻れない(学校に行けない、眠れない、食事が喉を通らない、極度の分離不安が続く 等)場合。
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「○○に会いに行きたい」「自分なんて死んだ方がましだ」など、子どもが死にたい気持ちをほのめかす発言をした場合。
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悪夢にうなされる、亡くなった場面を繰り返し思い出して怯える、些細な刺激に過剰に驚くといったトラウマ反応が強く見られる場合。
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攻撃的・反社会的な行動(激しいかんしゃく、暴力、家出 等)や、自傷行為・薬物乱用など危険な行動が見られる場合。
こうした兆候があるときは、早めに小児専門の心療内科や児童精神科医、スクールカウンセラーや臨床心理士などに相談し、適切な支援を受けましょう。専門家は子どもの心の状態を客観的に評価し、必要に応じてカウンセリングや治療につなげてくれます。
また、第三者の専門家に話を聞いてもらう場は、子どもにとって家族に言えない本音を吐き出せる安全な場にもなり得ます。保護者の方も「自分たちだけで支えなければ」と抱え込まず、必要に応じて遠慮なくプロの力を借りてください。それは決して失敗ではなく、子どもを思う適切な判断と言えるでしょう。
まとめ
身内の死を子どもに伝え、その悲しみに寄り添うことは決して簡単ではありません。親自身も深い悲しみの中にあればなおさら、子どものケアまで手が回らないと感じるかもしれません。しかし、子どもに正面から「死」に向き合わせ、支えていくことは、子どもの人生観を育む大切な経験となります。大切な人の死を悲しむのは自分以外の人を大切に想う気持ちの表れであり、その経験は子どもが他者への思いやりや命の尊さに気付くきっかけになるでしょう。
幼い頃に亡くしたおじいちゃん・おばあちゃんの記憶が薄れてしまっても、周囲の大人が伝える故人との思い出や愛情は、「見えない宝物」として子どもの心に残り続けます。子どもは成長していく過程で、その時々の発達段階に応じて改めて故人の死とその意味を問い直していきます。人生の節目節目でふと故人を思い出すとき、その子なりの「お別れ」が少しずつ形作られていくはずです。私たち大人にできるのは、子どもが悲しみとともに新しい日常を歩んでいけるよう、長い目で見守り支えることです。
子どもに「死」を伝えるのは辛い作業ですが、それは決して子どもを悲しみに突き落とすことではなく、悲しみを乗り越える力を一緒に育むプロセスです。涙する子どもを抱きしめながら、大人も一緒に泣いて構いません。家族みんなで故人を偲び、思い出を語り、少しずつ笑顔を取り戻していく──その過程で、子どもは「大切な人の死」を受け止め、生きていく力を育んでいくのです。