近年、身寄りのないまま亡くなる人の数が増加しています。例えば総務省の調査では、2018~2021年に身寄りのない人の死亡は約10万件に上り、自治体が保管する無縁遺骨も全国で約6万柱に達することが報告されました。
こうした「自分が亡くなった後に面倒を見てくれる親族等がいない」という状況に不安を感じる方も多いでしょう。しかし、日本では法律に基づき自治体が責任をもって遺体の火葬・埋葬や供養を行う仕組みが整っています。
本記事では、身寄りがない人が亡くなった場合の一般的な流れや、無縁仏となった場合の扱い、それを支える法律的根拠、さらに自治体等による共同墓地での埋葬や合同慰霊祭の例について解説します。身寄りがなくても最期が粗略に扱われることはないなど、終活を意識する皆さんが安心できる情報をお届けします。
目次
市区町村が行う火葬・埋葬までの一般的な流れ
身寄りのない人が亡くなった場合でも、市区町村が遺体の火葬・埋葬まで責任を持って対応します。具体的な手続きは亡くなった場所によって若干異なりますが、大まかな流れは全国共通です。一般的な手順を以下にご紹介します。
1. 関係機関への連絡
自宅で亡くなった場合は近隣住民の通報などで警察が発見し、病院で亡くなった場合は病院から役所へ連絡が入ります。いずれの場合も、まず警察や医師によって死亡の確認と検視が行われます。
2. 自治体への引き渡し
警察や病院から、引き取り手がいない遺体として地元の市区町村役場に連絡がなされ、自治体が遺体を引き取る手配をします。自治体は遺体を安置し、自治体ごとに定められた期間、保管・管理します。
3. 身元確認と親族の捜索
自治体では戸籍照会や警察の協力により故人の身元や住所を特定し、親族や関係者がいないか探します。場合によっては故人の遠方の親戚や関係者に連絡を取り、遺体を引き取ってもらえないか打診します。しかし、身元が判明していても親族に遺体の引き取りを断られるケースも近年増えており、結果的に引受人が見つからない例が多くなっています。
4. 自治体による火葬・埋葬
一定期間捜索しても引き取り手が見つからない場合、遺体は自治体が火葬をします。火葬後、遺骨は引き続き自治体が保管します。通常、自治体は遺骨を数年間保管して親族からの申し出を待ち、それでも最終的に引き取り手が現れなければ共同墓地に埋葬します。この一連の火葬・埋葬の措置は、墓地、埋葬等に関する法律の第9条によって市区町村長の責務として定められているものです。
上記のように、身寄りのない方が亡くなった場合でも、自治体が最終的な火葬・納骨まで対応します。なお、自治体が行うのはあくまで火葬と埋葬であり、通常の葬儀式典(通夜や告別式)は行われないのが一般的です。
行政による葬送を支える法律的根拠
身寄りのない人の遺体を自治体が火葬・埋葬することには、いくつかの法律的根拠があります。適用する主な法律として、次の3つがあげられます。
墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)
墓地埋葬法では、第9条において「死亡地の市町村長が火葬および埋葬を行わなければならない」旨が定められています。これは遺体の引取手がない場合に適用され、自治体が責任をもって火葬・埋葬を実施する法的根拠となっています。実際に身寄りのない遺体が発生した場合、各自治体はこの規定に従い火葬・納骨の措置を講じています。
行旅病人及行旅死亡人取扱法
明治32年(1899年)制定の古い法律で、旅の途中で病死・死亡した人、身元不明の人などの取り扱いを定めたものです。第7条には、遺体の引受人がいないときはその死亡地の市町村が火葬などを行うことが規定されています。
身寄りのない人が旅行先や路上などの自宅外で亡くなったケース、身元が分からない遺体については、この法律に基づき自治体が対応します。現代においても、行旅死亡人として扱われる遺体は決して珍しくなく、自治体ごとに毎年一定数が火葬・埋葬されています。
生活保護法(葬祭扶助)
経済的に困窮し葬儀や火葬が行えない方のために、生活保護法では葬祭扶助という制度が設けられています。自治体が火葬・埋葬など最低限度の葬送費用を公費で支給し、葬儀を執り行う人の負担を軽減します。
例えば、故人が生活保護受給者であった場合や、故人の遺族・関係者も葬儀費用を負担できない場合に、葬祭扶助が適用されます。葬祭扶助によって支給される費用は地域によって異なりますが、一人につきおおよそ20万円前後(上限20万9,000円程度)とされ、遺体の搬送・火葬・埋葬に必要な最低限の費用をまかなえる額です。
この制度は大家・民生委員などの故人と血縁関係にない人でも申請可能であり、申請が認められれば自治体から葬送費用の補助が受けられます。
以上の法律によって、身寄りのない人が亡くなった場合でも遺体が放置されたり不適切に処理されたりしないよう、行政の責任と手続きが明確に定められています。火葬・埋葬の義務や費用面の公的支援が用意されているため、経済的な理由や身元引受人不在が原因で最期がおざなりになることはありません。
多くの自治体がこれらの法律に則った対応マニュアルを整備し、担当部署が迅速に火葬・納骨まで行っています。
無縁仏となった遺骨の扱いと共同墓地への埋葬
無縁仏(むえんぼとけ)とは、葬式を執り行う人や遺骨を供養・管理する人がいない故人、またはその方が眠るお墓のことを指します。ここでは、身寄りがなく無縁仏となった人の遺骨の取り扱いについて説明します。
遺骨の一時保管と引き取り手捜索
身寄りのない人が亡くなり自治体が火葬を行った後、残された遺骨はすぐに埋葬されるわけではありません。自治体は故人の親族や関係者が名乗り出る可能性を考慮し、遺骨を一定期間保管します。保管期間は自治体によって定めが異なり、おおむね1~5年程度とされることが多いようです。
例えば、東京都などでは1~2年程度保管した後に合同墓に納骨するケースが多いですが、自治体によっては5年以上遺骨を安置しているところもあります。この保管期間中に親族が見つかったり、故人と特別な縁がある方が現れたりした場合には、所定の手続きを経て遺骨が引き渡されます。自治体は遺骨の受け取り希望者が現れた際に備え、故人の氏名や火葬日時などを記録して管理しています。
保管期間を過ぎても引き取り手が現れない遺骨は、最終的に無縁仏(無縁遺骨)として扱われることになります。このような遺骨を自治体は合同で埋葬(合祀)する手続きを取ります。
共同墓地・合祀墓への合同埋葬
引き取り手のない遺骨は多くの場合、自治体の管理する墓地または自治体が委託した寺院の墓所において、他の無縁仏の遺骨とまとめて埋葬(合葬・合祀)されます。
このように複数の故人の遺骨を共同で納めるお墓のことを、一般に合祀墓(ごうしぼ)あるいは合葬墓(がっそうぼ)と呼びます。また自治体が設置した無縁仏専用の埋葬施設は無縁墓地や無縁塚(むえんづか)と呼ばれることもあります。
合祀墓では血縁関係のない複数の遺骨が一緒に埋葬され、長い年月の中で土に還っていきます。一般的に、遺骨は骨壺から出して細かく粉骨して埋葬されます。そのため、いったん合祀墓に納骨された遺骨は後から個別に取り出すことができません。のちに親族が見つかり「故人の遺骨を引き取りたい」と希望しても、合祀墓に収蔵された後では遺骨を判別・返還することは困難です。
合祀型の共同墓地は、各地の公営霊園や寺院霊園の一角に設けられています。自治体が管理する無縁塚は、永代供養付きの合祀墓として半永久的に遺骨が安置・管理される施設です。一般的に無縁塚には個別の墓石は建てられず、合同の供養塔や慰霊碑が設置されています。例えば広島市の三滝墓苑には、市によって整備された「無縁仏供養塔」があり、無縁仏の遺骨がまとめて納められています。
自治体によって方法は多少異なるものの「身寄りのない方の遺骨を引き受け、永代にわたり供養・管理する」という目的は共通しています。
なお生前に自分のお墓の継承者がいないことが分かっている場合、永代供養墓(合祀型の共同墓地の一種)を自ら契約しておく選択肢もあります。永代供養墓とは、一度納骨すれば寺院や霊園が半永久的に供養・管理してくれるお墓で、後継ぎがいなくても無縁墓・無縁仏にならないメリットがあります。終活の一環として、身寄りがない方がこうした合祀型のお墓を準備しておくケースも増えています。
ただし、仮に準備がなく身寄りのないまま亡くなった場合でも、上述のとおり自治体が用意する共同墓地に合祀されるため「お墓に入れず遺骨が行き場を失う」という心配はありません。


合同慰霊祭など供養の実施例
身寄りのない故人に対する供養については、自治体や関係機関によって一定の配慮が行われています。無縁仏となった方々は家族や知人による個別の法要がない代わりに、合同供養の形で弔われる例が各地にあります。
多くの自治体では、無縁仏の遺骨を埋葬する際や埋葬後に、合同の慰霊祭・法要を執り行っています。具体的には、自治体から委託を受けた寺院や霊園管理者が定期的に読経供養を行ったり、自治体主催で慰霊式典を開催したりする場合があります。これらの合同法要にかかる費用も含め、葬送・埋葬の費用はすべて行政が負担し、故人への供養が社会的責任として果たされています。
合同慰霊祭の例としては、大阪市で毎年行われているものが挙げられます。大阪市では引き取り手のない遺骨を各区の斎場で1年間保管し、毎年9月中旬に慰霊祭を執行したうえで、市営霊園(大阪市設南霊園)の無縁堂に遺骨を合同埋葬しています。実際、毎年9月の慰霊祭には、市職員や霊園の関係者だけでなく、市民の有志も参列し、無縁堂には多くの花が手向けられています。
自治体が設置した新しい慰霊碑のもと、参列者が墓石に水をかけて冥福を祈る光景も見られます。大阪市では無縁堂の収蔵スペースが満杯になったため増設が行われましたが、それでも毎年数千柱規模の無縁遺骨が新たに合同埋葬されています。このように都市部を中心に無縁仏の増加が続いており、それに対応する形で合同慰霊祭や慰霊碑の建立といった取り組みが進められています。
他の地域でも、例えば秋のお彼岸やお盆の時期に合わせて、霊園や寺院が無縁仏の合同供養祭を開催するケースがあります。また、自治体によっては地元のボランティア団体や福祉団体と協力して無縁仏供養のイベントを行うところもあります。こうした合同慰霊祭では僧侶による読経が捧げられ、参列者が焼香や献花をして無縁仏の冥福を祈ります。コロナ禍以降は一般参加を制限して執り行う場合もありますが、「誰にも弔われない人を一人も出さない」という想いから、細々とでも供養を続けている自治体が少なくありません。
一方で、すべての自治体が表立った慰霊祭を行っているわけではない点にも触れておきます。行政による対応は地域の慣習や宗教観の違いもあり、供養の方法は自治体ごとに様々です。例えば、ある地域では火葬から埋葬までごく簡素に執り行い、特別な読経や慰霊式は行わないこともあります。別の地域では、合同墓に遺骨を収める際に職員が簡単な拝礼だけ行う場合もあります。
それでも、どの自治体でも遺骨を放置せず無縁墓にきちんと納骨することだけは確実に実施しています。最近では、合同慰霊祭を実施していない自治体でも、有志の僧侶やNPOが申し出て無縁仏の供養を行うといった動きも見られます。いずれにせよ、社会全体で無縁仏を「心を込めて弔う」意識が広がりつつあり、身寄りのない方でも寂しい最後にはならないよう配慮がなされています。
身寄りがなくても最期が粗略にならない理由
ここまで見てきたように、身寄りがない人が亡くなった場合でも決してその最期が粗末に扱われることはありません。法制度の整備と行政の対応によって、遺体は適切に火葬・埋葬され、遺骨もしかるべき場所で永代にわたり供養・管理されます。日本には昔から、行き場のない遺体を手厚く葬る文化があり、江戸時代には「投げ込み寺」と呼ばれる寺院が無縁仏を引き取り供養していた歴史もあります。現代ではその役割を行政が担い、法律に則った形で社会的弱者の最後を看取っています。
身寄りがないことで葬儀や埋葬に不安を感じる必要はありません。死亡届の提出から火葬許可の取得、火葬・納骨に至るまですべて行政が手続きを行ってくれるため、たとえおひとり様でも必ずしかるべき旅立ちの儀が執り行われます。自治体の担当者は故人と面識がなくとも、公務として粛々と対応しつつ、可能な範囲で故人に敬意を払った取り扱いを心がけています。「無縁仏になったら紙箱に遺骨をまとめられて捨てられるのでは…」といった心配の声を耳にすることがありますが、そのような非人道的な扱いは法律上も倫理上も行われていません。むしろ、多くの自治体職員や関係者は「最後に行政だけでも故人を送り出してあげよう」という気持ちで業務にあたっています。
また、生活保護の葬祭扶助制度や地域の福祉ネットワークによって、経済的・人的な支援体制も整っています。身寄りがない方の死後事務を専門にサポートするNPOや一般社団法人なども存在し、生前に契約しておけば役所との連絡調整や遺品整理、永代供養先の手配などを代行してくれます。終活をされている方は、こうした制度や団体を活用することで、より一層の安心を得ることもできます。ただし、仮にそうした準備ができなかったとしても、最終的には公的機関があなたのご遺体とご遺骨を責任持って預かり、しかるべき葬送と供養を施してくれるという事実は変わりません。
身寄りがなくても最期が決して粗略にならない――これは日本社会が長年培ってきた互助の精神と、公的扶助の仕組みによるものです。どうか安心して、ご自身の人生を全うしてください。そして終活に取り組まれている方は、「自分の死後は行政に任せきりにして迷惑をかけてしまうのでは」と後ろめたく思う必要はありません。むろん、生前に感謝の気持ちを込めて行政サービスを受ける準備(エンディングノートへの記載や、信頼できる第三者への死後事務委任など)をしておくことは望ましいですが、万一それが叶わなくてもあなたの最期は社会全体できちんと見届けてもらえるのです。
まとめ
最後になりますが、現代は核家族化や高齢者の単身世帯増加により、「誰にも看取られずに死を迎えるかもしれない」という不安を抱える方が増えています。しかし、本記事で述べたように日本各地の自治体は法律に従い、そうした方々のご遺体を丁寧に火葬・埋葬し、無縁仏としてしっかり供養しています。
身寄りがなくても決して一人ぼっちではありません。あなたの人生の締めくくりも、社会の温かな手によって支えられます。終活を進めるうえでも、この事実を知っていただくことで少しでも心の負担が軽くなり、安心して日々をお過ごしいただければ幸いです。