お葬式に参列するとき、「数珠(じゅず)」は欠かせない持ち物の一つですよね。この記事では、仏教における数珠の意味や正しい使い方、宗派ごとの違い、数珠の種類やマナー、購入の仕方、さらに男性用と女性用の違いまで、幅広く解説します。後半では具体的な数珠の商品例もご紹介します。
目次
1. 数珠の意味(仏教における役割や象徴的意味)
数珠は仏教徒にとってとても大切な法具です。もともとは念仏やお経を唱える回数を数えるために使われてきました。実際、「数珠(念珠)」という名前は「数を念ずる」、つまりお念仏の回数を記録する道具に由来しています。仏様に手を合わせながら数珠を一珠一珠繰ることで、心を集中させ煩悩を払う修行になるとされています。
しかし、数珠の役割は単なるカウンターに留まりません。仏教の伝統では、数珠の珠ひとつひとつが煩悩を祓う仏様を表すともされ、身につけるだけで厄除けのお守りとなり福を招くといわれます。そのため、今日ではお葬式や法事だけでなく、日常でブレスレットのように身につけるお守り代わりの数珠も販売されています。数珠は仏教徒であることを示す象徴とも言え、仏教と切っても切れない関係にあります。例えばお葬式の場で手に数珠を持つことは、故人への追善供養の気持ちを示す大切な所作です。
また、数珠の珠の数には象徴的な意味があります。正式な「本式数珠」の珠数は108個で、人間の煩悩の数(108つ)に由来します。お釈迦様は「何度も仏の名を唱え祈れば煩悩を断ち切れる」と説きました。その教えにならい、108つの珠を順に指で繰りながら念仏を唱えることで、人の108煩悩すべてを断ち切るという意味合いが込められているのです。こうした背景から、数珠は単なる道具以上に信仰心の象徴となっています。
2. 数珠の使い方(参列時の持ち方・使用方法)
お葬式に参列する際の数珠の持ち方には基本のマナーがあります。数珠は常に左手で持つのが原則です。左手に数珠をかけて房(ふさ)を下に垂らし、親指で軽く押さえるように持ちます。これは、左手が仏様の世界、右手が現世を表し、両手を合わせ数珠を通すことで煩悩や不浄を清めるという意味合いがあるためです。
具体的な所作を順を追って説明します。
着席中や移動中
数珠は左手首にかけておきます(輪が長い場合は二重にしてかけます)。移動時には数珠入れ(念珠袋)や袱紗(ふくさ)に入れて持ち運ぶとよいでしょう。男性の場合はスーツのポケットに入れても構いません。
焼香の際
自分の順番までは左手に数珠を持って待機します。焼香台に進むときも左手に房を下にして数珠を持ったまま歩きます。焼香動作中は数珠は左手にかけたまま、右手で抹香をつまんで額にいただき、香炉に落とします(※焼香の作法自体は宗派によって回数などが異なります)。焼香を終えたら、数珠を両手にかけ直して合掌します。その後再び数珠を左手だけに戻し、遺族に一礼して席に戻ります。
合掌するとき
数珠を持った左手に右手を添えて合掌する方法と、数珠の輪の中に左右の手の指(親指以外の8本)を通し、親指で押さえるようにして合掌する方法があります。いずれも房は下向きに垂らし、数珠全体を両手で包むように合わせます。宗派や地域によって細かな作法の違いはありますが、基本的には左手にかけていた数珠に右手を添えて合掌すれば問題ありません。
なお、宗派ごとの細かな持ち方の違いも存在します。例えば真言宗では数珠を両手の中指にかけたまま合掌し、普段は左手で房を握るように持つ作法があります。日蓮宗では二重にした数珠を「8の字」にひねり、房が3本ついている輪を左手中指に、2本の方を右手中指にかけて合掌するという独特の持ち方があります。こうした違いは後述する宗派ごとの数珠の形状にも関係します。一般の参列者で作法に迷う場合は、左手で数珠を持ち、合掌の際に両手で包むという基本形を守れば十分でしょう。
3. 宗派による数珠の違い(主要宗派の特徴)
日本の仏教では宗派によってご本尊やお経だけでなく、使用する数珠の形や作法にも違いがあります。各宗派の正式な数珠(本式数珠)は珠の数や配置、房の数・色などに独自の決まりがあり、それが宗派の教えや風習を反映しています。以下に主要な宗派の数珠の特徴を簡単にまとめます。
真言宗(しんごんしゅう)
真言宗では数珠を特に大事にすると言われ、正式な本式数珠は「振分数珠(ふりわけじゅず)」という独特の形状です。在家信者向けには親玉2個・四天玉4個を含む108玉が基本で、場合によって一連(輪が一つ)・二連・三連のものがあります。素材は菩提樹の実や黒檀などの木玉、あるいは瑪瑙など石製の玉が使われ、房の色は紫色や黒色が一般的です。
浄土宗(じょうどしゅう)
法然上人を開祖とする浄土宗の数珠は、二連または三連の輪が繋がった形をしています。二連のものは「日課数珠」と呼ばれ日々のお勤めやお墓参り用、三連は「本式数珠」と呼ばれ法要など正式な場で使われます。素材は木玉や念珠石が多く、房の色は紫か白が用いられます。
浄土真宗(じょうどしんしゅう)
浄土真宗の数珠は他宗とは大きく形が異なります。輪が途中で切れて繋がっておらず、一方の房が「蓮如結び」という独特の結び方で仕立てられているのが特徴です。これは「阿弥陀如来の他力本願で救われる(自力で数珠を繰る必要がない)」教えを表し、数珠を繰って煩悩を数えない形になっています。また、浄土真宗の数珠は男性用と女性用で房の本数が異なり、男性用は房が2本、女性用は房が4本つくのが一般的です。房の色も宗派内の派閥で違いがあり、本願寺派(お西)では白色の房、真宗大谷派(お東)では茶色や黒の房が多く用いられます。
曹洞宗(そうとうしゅう)
曹洞宗(禅宗)の数珠は、一連または二連の輪が一般的です。大きな特徴として、珠と珠の間に小さな金属製の輪(輪っか状の留め具)が入る点が挙げられます。素材は黒檀や星月菩提樹(せいげつぼだいじゅ)など木製の珠を用いることが多く、房の色は黒や茶色の落ち着いた色が中心です。
臨済宗(りんざいしゅう)
臨済宗(禅宗)の数珠は、形状や素材は曹洞宗とほぼ同じですが、曹洞宗のような金属の輪は付いていない点で異なります。珠の素材は星月菩提樹や黒檀など、房の色は黒や茶色が一般的です。
日蓮宗(にちれんしゅう)
日蓮宗の数珠は二連の輪が繋がった形で、珠の数は宗派の題目にちなむこともあり様々ですが、108珠の本式数珠を用いることも多いです。特徴的なのは房の構成で、片方に3本、もう片方に2本の房(計5本)が付いています。素材は星月菩提樹や水晶などが用いられ、房の色は白や橙(だいだい)色・黄色系がよく使われます。
天台宗(てんだいしゅう)
天台宗の数珠は浄土宗と同様、二連の輪が繋がった形であることが多いです。素材には黒檀や水晶など様々なものが使われ、房の色は本来白が基本ですが、青や紫の房を用いることもあります。珠の数は108珠の正式念珠が一般的ですが、省略形もあります。
以上が代表的な宗派の数珠の違いです。自分の宗派の本式数珠を持つのが本来は望ましいとされていますが、近年は家の宗派を知らない方も多く、後述する略式数珠(どの宗派でも使える数珠)を使う人が増えています。宗派が分からない場合や特定の宗派に属していない場合は、宗派を問わない略式の数珠を使えば問題ありません。また、房の色についても各宗派で違いがありますが、迷ったときは白色や落ち着いた色合いの房を選べば無難でしょう。
4. 数珠の種類(片手念珠・本連念珠など)
数珠には大きく分けて「本式数珠(正式念珠)」と「略式数珠(片手念珠)」の二種類があります。これは宗派ごとの正式な形か、宗派を問わず使える汎用的な形かの違いです。
本式数珠(正式念珠)
各宗派が定める正式な数珠で、珠の数や配置が厳密に決まっています。前述のように多くの場合108個の主珠を持ち、それに親玉(親珠)や四天玉(二天玉)といったパーツが加わります。正式念珠は両手で持つ大きな輪が二重または三重になったもの(本連念珠とも呼ばれます)も多く、各宗派の教義や歴史的背景が反映された形状になっています。例えば日蓮宗では正式念珠(108珠)を用いる習慣が強く残っています。
略式数珠(片手念珠)
一方、略式数珠は宗派を問わず使える一般用の数珠です。珠の数に決まりは特になく、108の約数である27個や18個といった珠数のものもありますが、珠の大きさとのバランスや持ちやすさを考慮して作られることがほとんどです。略式数珠は片手で持てる輪になっており、宗派を気にせず誰でも使えるため、現在では初めて数珠を買う人の6~7割が略式念珠を選ぶとも言われます。略式数珠でも男性用・女性用の区別があり、後述するように大きさや房のデザインが異なります。
一般の参列者としてお葬式や法事に持参するなら、略式数珠(片手念珠)で基本的に問題ありません。略式数珠はどの宗派の法事でもマナー違反にはならず便利です。ただし、自身の家の宗派がお分かりであれば、本式数珠を一つ持っておくと法要の際など安心でしょう。実際、最近では「親戚の法事では自分の宗派の本式数珠、会社関係の葬儀では略式数珠」というように使い分ける方も多いようです。
5. 数珠のマナーや基礎知識(葬儀でのマナー・タブーなど)
数珠に関する基本的なマナーを押さえておきましょう。まず、数珠は一人につき一連ずつ持つのがマナーです。家族で一つを共有したり、他人から借りたりするのは避けましょう。数珠は個人の信仰の象徴でもあるため、基本的に貸し借りはしないものとされています。もし貸し借りするくらいなら、持たない方がましという意見もあるほどです。ご家族であっても一人ひとり専用の数珠を用意するのが望ましいです。
また、数珠の扱いは丁寧にしましょう。数珠は私たちの「信心」を象徴する大切な法具なので、床や畳の上に直に置かないように心がけます。お葬式の最中に席を立つ場合でも、数珠を椅子の上などに置きっぱなしにするのはマナー違反です。必ず身につけて持ち歩くか、ポケットや数珠袋にしまい、肌身離さず持っておきましょう。
持ち運びの際は専用の念珠袋(数珠入れ)に入れると安心です。直接バッグに入れると他の物とぶつかって傷むことがありますから、柔らかい布製の袋や袱紗に包んで持参するとよいでしょう。男性で和装の場合は袂(たもと)、洋装の場合はスーツの内ポケットに入れても構いません。とにかく数珠を粗末に扱わず、常に清潔で安全な場所に保管するようにしてください。
お葬式の最中は常に数珠を手元に持っておき、式の途中でバッグに仕舞い込まないよう注意します。ときどき、焼香が終わると数珠を片付けてしまう方もいますが、葬儀・告別式や法要の間は、読経中も含めてずっと数珠を手にして合掌する機会があります。式が完全に終わるまでは、数珠をしまわず手首に掛けるなどしておきましょう。
なお、仏教以外の宗教の儀式では数珠は使用しません。数珠はあくまで仏教の法具なので、キリスト教式の葬儀や神道の神式の葬儀では数珠は必要ありません。自分が仏教徒であっても、キリスト教や神式の葬儀に参列するときは数珠を持参しなくて問題ないのです。うっかり数珠を出してしまうと宗教儀礼的に場違いになることがありますので注意しましょう。
最後に、数珠に関するよくある疑問について触れておきます。よく「数珠は人から贈られるもので、自分で買うものではない」という話を耳にしますが、これは一部地域の風習に過ぎず、一般的には自分で購入して全く問題ありません。数珠はむしろお守り代わりに日常から持ち歩いても良いくらいです。もし頂き物の数珠があればそれを使っても構いませんが、遠慮なく自分好みのものを選んで大切に使ってください。
6. 数珠の購入方法(どこで買えるか、選び方のポイント)
数珠はどこで購入できるのか? 一般的には、仏具店や仏壇店・宗教用品店で購入できます。お寺の売店や仏教関連の専門店(念珠専門店)では、実際に手に取って選ぶことができるでしょう。最近ではインターネット通販(Amazonや楽天市場など)でも数珠を購入可能です。大手仏具店(例えばお仏壇のはせがわ等)が公式オンラインショップを展開していたり、京都の念珠職人が作った本格的な数珠が通販サイトで手に入ったりします。
数珠を選ぶ際のポイントをいくつか挙げます。
略式か本式か
自分の属する宗派がはっきりしている場合は、その宗派用の本式数珠を用意するのが理想です。ただし前述の通り略式数珠でも差し支えない場面は多く、最初の一本としては汎用性の高い略式数珠がおすすめです。本式は将来的に必要になったときにあらためて買い足す形でも良いでしょう。
素材
数珠の珠の素材は様々です。それぞれ風合いや手触り、重みが異なり、さらには仏教的な意味合いもあります。伝統的には仏典で示された「七宝」(金・銀・瑠璃=ラピスラズリ・玻璃=水晶・硨磲=シャコ貝・珊瑚・瑪瑙)で作るのが良いとされてきました。現在市販されている数珠の素材には、黒檀・白檀・紫檀などの木製、水晶・瑪瑙・翡翠・琥珀などの天然石、菩提樹の実や蓮の実などの種子、そして安価なものでは合成樹脂(プラスチック)製のものまであります。それぞれに長所がありますが、手にしっくり馴染むものを選ぶと良いでしょう。実際に触れない通販の場合はレビューなども参考に、信頼できるショップから購入するのがおすすめです。
房の種類と色
数珠の房(ふさ)にも種類があります。大きく分けて頭付房(房の根元に飾り結びがあるタイプ)と切り房/紐房(束ねただけのシンプルな房)があります。一般に、男性用数珠は紐房が多く、女性用数珠は頭付房が多い傾向があります。色については宗派や年齢による決まりは厳密にはありませんが、派手すぎる色は避け、葬儀では白や黒、紫、深緑など落ち着いた房色が無難です。若い女性なら薄いピンクや藤色の房も上品でしょう。年配の方ほど地味な色を選ぶ傾向がありますが、最終的には本人の好みで構いません。
サイズ(珠の大きさ)
数珠は男性用と女性用で珠の大きさが違いますので、自分用に買う際は表記を確認しましょう。珠の直径や全体の輪の長さは商品説明に記載されています。男性用は手が大きい分、珠が大きめで輪も長め(ゆったりめ)に作られています。女性用は珠が小さめで輪も短めなので、小柄な女性が男性用を持つと少し大ぶりに感じるかもしれません。
価格
値段は素材と加工によってピンキリです。安いものは1,000円台からありますが、長く使うことを考えれば品質の良いものを選びたいところです。菩提樹や黒檀などの木製であれば比較的手頃で2,000~5,000円程度、水晶や瑪瑙など石のものも5,000~1万円前後で入手可能です。珊瑚や翡翠など希少な素材、高級数珠になると数万円以上します。予算に応じて無理のない範囲で選びましょう。
最後に、「数珠は自分で買うものではない」という迷信について補足します。前述の通り、自分で選んで購入して問題ありません。むしろ、自分の好みや信仰に合った数珠を選ぶことが大事です。お気に入りの数珠が見つかれば、大切にお手入れしながら一生ものとして使えるでしょう。
7. 男性用・女性用数珠の違い(玉のサイズや色など)
数珠には男性向けと女性向けでデザイン上の違いがあります。店頭やネットでも「男性用数珠」「女性用数珠」として分類されていますが、その主な違いは玉のサイズと房の仕様です。
玉(珠)の大きさ
男性用数珠は珠の直径が大きめで、一般に10ミリ以上の珠が使われます。女性用数珠は珠が小ぶりで、8ミリ前後の珠が使われることが多いです。例えば略式数珠の場合、男性用は主玉の径が12ミリや14ミリといった大粒のものが多く、女性用は6~8ミリ程度の小粒のものが主流です。珠の大きさが違う分、男性用は全体の輪も大きく長めに作られ、女性用は輪が小さめになっています。
房のデザインと色

女性用数珠の例
前述したように、男性用はシンプルな紐房(切り房)仕立てが多く、女性用は房の根元に飾り玉や房頭が付いた頭付房が多い傾向にあります。色について厳密な決まりはありませんが、男性用は黒や濃紺、深緑、焦げ茶、紫といった渋い色合いが人気です。女性用は薄紫や桜色、白、藤色など上品で明るめの色合いの房を選ぶ方が多くなります。また、同じ素材でも男性用は艶消し(マット)仕上げで渋く、女性用は艶ありで華やかに見せるなど、デザイン面でも性別による違いが見られます。総じて女性用の数珠は男性用に比べて小ぶりで可憐な印象になります。
このように男女で違いはありますが、数珠そのものの機能やご利益に差があるわけではありません。マナーとして性別に合ったものを持つのが望ましいという程度です。なお、近年はユニセックスなデザインの商品も出てきていますが、基本的に「男女兼用の数珠」はないと考えましょう。ご自分用に購入する際は「男性用」「女性用」の表示を確認して選ぶようにしてください。
8. 具体的な数珠の商品例(購入可能な数珠の紹介)
最後に、実際に市販されている数珠の例をいくつかご紹介します。(amazonで販売されているレビュー数の多い売れ筋商品を紹介します。)
男性用 本式数珠の例
男性用 略式数珠の例
女性用 本式数珠の例
女性用 略式数珠の例
まとめ
数珠は、故人への追悼と自分自身の心を整えるための大切な法具です。宗派によって形や珠数、房の色は違いますが、根底にある「煩悩を断ち切り、功徳を積む」という目的は共通しています。略式数珠なら宗派を問わず使えるので、まずは自分の手にしっくり来る一本を選び、葬儀や法事の場で正しく扱いましょう。
選ぶときは ①素材 ②珠の大きさ ③房の色と形 ④男女別サイズ を意識すると失敗がありません。普段から数珠袋に入れて丁寧に保管し、いざというとき慌てずに取り出せるよう準備しておくことも大切です。
正しい持ち方やマナーを身につけたうえで、心を込めて合掌する所作こそが最良の供養になります。この記事が、あなた自身とご家族にとって「信頼できる一本」を選ぶ手助けになれば幸いです。