生前に自分の葬儀について相談するシニア夫婦のイメージ。自分の葬儀を事前に準備しておくことには多くのメリットがあります。たとえば「自分らしい葬式ができる」「家族の負担を軽減できる」「葬式の費用を事前に確認できる」「身寄りがない場合もスムーズに葬式を執り行える」といった点が挙げられます。人が亡くなった直後、遺された家族は悲しみの中で数多くの決定や手続きを短時間で行わなければなりません。生前に自身の葬儀の方針を決めておくことは、人生の最期を自分の希望に沿った形にすると同時に、遺族の精神的・金銭的負担を和らげる思いやりにもなるのです。
以下では、終活中の高齢者の方に向けて、自分の葬儀を考える際に生前に決めておきたい10の項目を丁寧に解説します。それぞれの項目について、仏教形式の葬儀を中心にポイントや注意点をまとめました。記事の後半では、読みやすさ向上のため表やチェックリストも用いていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 葬儀を行うかどうか(葬儀の有無)
まず最初に考えるべきは、葬儀自体を執り行うかどうかという方針です。近年では高齢者の中にも「葬儀は行わずに火葬だけで済ませたい」という希望を持つ方が増えてきました。そのように葬儀を執り行わずに火葬のみを行う方法は「直葬」(ちょくそう)と呼ばれます。直葬では通夜や告別式といった儀式を一切行わず、遺体を病院や自宅から直接火葬場に搬送し、火葬のみ執り行います。ごく近親者だけで5分程度のお別れをした後に火葬を行うケースが一般的です。
一方、従来通り何らかの形で葬儀を行う場合には、その具体的な規模や形式を決める必要があります。ただし葬儀を行うか否かに正解はなく、経済的事情や信条、家族構成などを考慮して判断するとよいでしょう。葬儀を行わない選択をする場合でも、「火葬後に近親者のみでお別れ会を開く」など別の形で故人を送る方法もあります。大切なのは自分の考えを事前に家族へ伝えておくことです。生前に方針が示されていれば、遺された家族は迷わずに済み、心残りのない見送り方ができるでしょう。
2. 葬儀の形式・規模を決める(家族葬、一日葬、一般葬など)
葬儀を行うと決めたら、次にその形式や規模を具体的に検討します。葬儀の規模は「誰を呼ぶか」によって決まります。一般的に葬儀の形式としては以下のような種類があります。(※費用相場は地域や葬儀社によって異なります。下記は一例です。)
葬儀形式 | 主な特徴(規模・流れ・費用感) |
---|---|
一般葬 | 親族・友人・知人・地域など多くの人が参列。通夜+告別式の2日間。正式で儀礼的な要素が多く、平均費用は高め(200万円前後が相場。 |
家族葬 | 家族・近親者中心の少人数葬。通夜+告別式を行うが規模は小さい。ゆっくり故人とお別れできる。費用は一般葬より抑えられる傾向。 |
一日葬 | 通夜を行わず1日で告別式と火葬まで実施。日程的・費用的負担を軽減できる。参列者は家族葬程度が多い。費用相場は30~50万円程度(内容次第)と言われる。 |
直葬(火葬式) | 儀式を行わず火葬のみ実施。ごく近い家族だけで見送り。宗教者を呼ばないためお布施不要。費用は最も安価(火葬料等数万円~十数万円+遺体搬送費用など)。 |
一般葬
親族のほか友人・知人、近所の方や会社関係者など、多くの参列者を呼ぶ一般的な葬儀です。通夜と葬儀・告別式の2日間をかけて正式に執り行われます。参列者が多いため、式場も比較的大きなホールなどを使用し、費用も高額になる傾向があります。
家族葬
故人のごく近い身内や親しい友人のみに参列者を限定し、少人数でゆっくりとお別れする葬儀です。形式自体は一般葬と同様に通夜・告別式を行うこともあれば、規模に合わせて簡素にすることもあります。参列者が限られる分、アットホームな雰囲気で故人を送ることができ、費用も一般葬より抑えられる場合が多いです。

一日葬
通夜を行わず葬儀・告別式だけを1日で行う形式です。例えば「通夜を省略して告別式のみ執り行い、そのまま火葬まで実施する」という流れになります。高齢の参列者に配慮して日程を短縮したり、費用面で負担を減らしたい場合に選ばれる形式です。参列者は家族葬程度の少人数から、場合によっては一般葬並みに呼ぶこともありますが、式自体は1日で完結します。

直葬(火葬式)
上記の通り通夜・葬儀式を一切行わずに直接火葬する形態です。宗教的な儀式や会葬者への対応を省略するため、ごく身近な人だけでシンプルに見送ることができます。費用負担も大幅に軽減されますが、故人と縁のあった人達がお別れする機会が無いまま火葬となる点には注意が必要です。

以上のように、葬儀の形式には複数の選択肢があります。それぞれ参列者数や所要日数、費用が異なりますので、自分と家族の状況に合わせて最適な形式を選びましょう。下表に代表的な葬儀形式の特徴をまとめました。
自分が希望する葬儀の形式が決まったら、誰を呼ぶか(参列者の範囲)も合わせて決めておきましょう。参列者の範囲によって必要な式場の規模も変わります。生前に「自分の葬儀にはこの人たちに来てほしい」とリストアップし、家族に共有しておくことをおすすめします。連絡先リストをエンディングノートにまとめておけば、万が一の際に家族が迅速に連絡を取ることができ安心です。
3. 宗教形式の選択(仏教式を中心に宗派の違いも)
日本で行われる葬儀のほとんどは仏教式(仏式)ですが、故人や遺族の信仰によって神道式やキリスト教式、無宗教式などが選ばれる場合もあります。まずは自分の葬儀をどの宗教の形式で行うかを決めておきましょう。特に「自分は無宗教だが葬儀はどうするか決めていない」という場合、生前に方針を示しておかないと遺された家族が大いに迷うポイントになります。逆に、生前に本人の希望宗教が明確であれば、残された親族も迷わずに準備を進められます。
仏式葬儀では白木祭壇に生花や故人の遺影写真を飾り、僧侶による読経が行われます。仏教式の葬儀では、お坊さん(僧侶)を招いてお経をあげてもらい、遺族・参列者が焼香をして故人の冥福を祈るという流れが一般的です。仏式では通夜・葬儀式・告別式・火葬という手順を踏むのが伝統的ですが、昨今の簡略化志向により通夜を省略する一日葬など仏式の範囲内で形を変えるケースもあります。仏教の宗派についても触れておきましょう。同じ仏教式でも、宗派によって葬儀の作法や細かい流れに違いがあります。たとえば宗派によって焼香で香をくべる回数が異なることがあるなど、教義やしきたりの違いが儀式に反映されます。ただし日本の主要な仏教宗派(浄土宗・浄土真宗・曹洞宗・日蓮宗など)では、「僧侶が読経し、参列者が焼香をする」という大筋の流れ自体は共通しています。細かな作法(焼香の回数や数珠の扱い方、戒名の有無など)が異なる程度ですので、自身の家の菩提寺や信仰宗派がある場合は、その宗派の慣習に従った葬儀になることを念頭に置きましょう。もし菩提寺(先祖代々付き合いのあるお寺)がある場合は、事前に住職に相談して自分の葬儀の宗派的なしきたりについて確認しておくのも安心です。
一方、神道式やキリスト教式、あるいは無宗教の自由葬といった仏教以外の形式を希望する場合も、必ず事前に家族に伝えておきます。たとえば本人が生前熱心なキリスト教徒であったなら、本来は仏式ではなく教会でキリスト教式の葬儀を行うのが自然です。その意志が周囲に伝わっていなければ、家族は戸惑ってしまうでしょう。また無宗教で式典的な葬儀を望まない場合でも、「お別れの会」のような形にするのか、まったく何もしないのか、希望するスタイルを明示しておくと遺族も対応に困りません。

4. 葬儀を行う場所の決定(自宅、斎場、寺院など)
葬儀の規模や宗教形式を踏まえて、葬儀をどこで行うか(式場の場所)も生前に考えておきましょう。葬儀を行う場所としては主に以下の候補があります。
自宅
かつては自宅で通夜・葬儀を執り行う例も多く見られました。親しい人だけの家族葬規模であれば自宅で小規模に行うことも可能です。自宅葬は故人を慣れ親しんだ家から送り出せるメリットがありますが、スペースや近隣への配慮、準備片付けの負担といった問題もあります。
葬儀会館・セレモニーホール(斎場)
現在もっとも一般的な選択肢です。公営・民営の葬祭ホールや葬儀社の式場を利用します。規模に応じ大小さまざまな会場があり、設備や控室、駐車場なども整っています。自宅からの距離や最寄駅からのアクセス、駐車場の有無、火葬場への動線なども考慮して選ぶとよいでしょう。大規模な一般葬から小規模の家族葬まで対応可能な会場が多く、設備面でも安心です。
寺院(菩提寺)
故人や家の菩提寺がある場合、寺院で葬儀を行うこともできます。寺院本堂で葬儀式を営み、そのまま境内墓地で埋葬まで行えるケースもあります。菩提寺での葬儀は宗派の作法に則って厳かに行われますが、収容人数や駐車場の問題、日程調整(寺側の行事と重ならないか)などを事前確認しておく必要があります。
公民館・集会場
地域によっては、公民館や自治体の集会施設で葬儀を行う場合もあります。特に地方では近隣の人々が総出で準備を手伝う風習が残る所もあり、そのような場合に利用されます。ただし近年は設備の整った専用式場が好まれる傾向です。
これらの中から「自分はどの場所で葬儀をしてほしいか」という希望があれば、生前に家族へ伝えておきましょう。たとえば「できれば先祖代々のお墓のある菩提寺で行ってほしい」「火葬式で十分なので会場は特に不要」など、人それぞれ希望があるはずです。場所の希望が固まったら、可能であれば生前に式場の下見をしておくこともおすすめです。見学時には会場の雰囲気だけでなく、スタッフの対応、交通の便、宿泊施設の有無(遠方からの親族が来る場合)などもチェックしましょう。また宗教・宗派によって適した会場が異なる場合もあります。自身がキリスト教式を望むなら教会を探す必要がありますし、無宗教葬に対応した式場もあります。こうした点も含めて、生前にいくつか候補を比較検討しておくと安心です。
5. 葬儀費用の目安と費用負担
葬儀の規模や内容が決まったら、費用の見当をつけて生前に備えておくことが重要です。【一般的な葬儀費用の平均は約200万円】といわれ、会場費用、火葬料、僧侶へのお布施、参列者への飲食接待費、返礼品代など様々な項目に費用がかかります。もちろん規模や地域によって変動しますが、「葬儀にはこれくらい費用がかかる」という目安を知っておくことは大切です。特に高額になりがちな一般葬だけでなく、小規模な家族葬でも数十万円程度、直葬でも十数万円程度の費用は発生します。
費用負担の方針も生前に決めておきましょう。【自分の葬儀の費用を「誰が負担するのか」】をあらかじめ決めておかないと、いざというとき支払いを巡って家族間のトラブルになりかねません。例えば何も決めていないと「配偶者が全額支払うべき」といった思い込みで揉める可能性もあります。自分の葬儀が原因で家族が不仲になるのは本意ではないでしょうから、生前のうちに家族や親戚と話し合い、誰がどの程度費用を持つか決めておくことが望ましいです。合意が取れれば、念のため遺言書に費用負担者を明記しておく方法もあります。
葬儀費用の準備方法
費用負担の考えがまとまったら、実際に葬儀費用をどう準備しておくかも検討しましょう。生前にできる葬儀費用準備の手段として、例えば次のようなものがあります。
預貯金で備える
葬儀専用にある程度の貯金を確保し、家族にも「この預金は葬儀費用」とわかるように伝えておく方法です。注意点として、銀行預金は名義人が死亡すると口座が凍結されてしまうことがあります。相続人であれば1金融機関あたり150万円まで引き出し可能というルールもありますが、手続きに日数がかかることも考え、現金で手元に用意するか速やかに引き出せる口座にしておくなど工夫すると良いでしょう。
葬儀保険に加入する
近年登場した「葬儀保険」(少額短期保険等)は、月々比較的安い保険料で葬儀費用に充てる保険金が受け取れる商品です。加入者が亡くなった場合に最短翌日に指定口座へ保険金が振り込まれるタイプもあり、急な支払いに備える手段として有効です。高齢者でも加入しやすいよう医師の診断書が不要な場合が多いのも特徴です。ただし契約から一定期間(例:1か月)は支払い対象外となる待機期間が設定されるのが一般的なので、加入するなら早めに検討しましょう。
互助会を活用する
冠婚葬祭互助会の積立を利用して葬儀費用に充当する方法です。互助会会員になり掛金を積み立てると、自分の葬儀の際に互助会の提携プランを割引価格で利用できます。毎月コツコツ掛金を積み立てることで準備ができ、プランによっては割安になります。ただしプラン内容が希望と合わない場合もあるため、互助会を利用する際は自分の望む葬儀スタイルに対応したものか確認しましょう。
葬儀社との生前契約
一部の葬儀社では生前予約・契約制度を設けています。これは本人が健在なうちに葬儀社と契約を結び、希望する葬儀内容や予算を取り決め、前払いまたは信託などで費用も手当てしておくものです。生前契約を活用すれば、棺や祭壇の種類、式の規模なども本人の希望に沿った形で事前に確定できるため、遺族は当日の打ち合わせ負担がほぼなくなります。契約時には将来的な変更・解約の可否も確認しておきましょう。
このように複数の方法がありますので、自分に合った手段で「葬儀費用くらいは自分で準備しておきたい」という思いを形にしておくと安心です。なお、市区町村から支給される葬祭費・埋葬料(国民健康保険や社会保険の加入者が死亡した場合に支給)など、公的な給付金制度もあります。家族にとってはそうした公的補助の手続きを調べる余裕も、生前準備が整っていればこそです。万全の準備で、残される家族への負担をできるだけ和らげましょう。
6. 遺影写真の準備
「遺影写真」とは、葬儀の祭壇に飾られる故人の肖像写真のことです。葬儀の際には遺影を大きく引き伸ばして額縁に入れて飾りますが、どの写真を使うかによって故人の印象が大きく左右されます。しかし実際には、遺族が悲しみの中で急いで写真を選ばねばならず「適当な写真が手元にない」「もっと良い写真を使ってあげたかった」と悩むケースが少なくありません。
こうした状況を避けるため、生前に自分の遺影用写真を準備しておくことをおすすめします。【遺影用写真の生前撮影】は終活の一環として近年増えており、プロのカメラマンによる撮影会を開催する葬儀社もあります。やはりプロが撮った写真は素人のスナップ写真とは格段に仕上がりが違うものです。お気に入りの服装や表情で、「これぞとびきりの一枚」という写真が用意できれば理想的でしょう。元気なうちに撮影した若々しい写真を遺影に使ってもらうことで、参列者にも明るい記憶が残ります。
もし写真館で撮影しなくても、普段から家族に「この写真を遺影に使ってほしい」と伝えておくだけでも十分役立ちます。スマートフォンやアルバムの中から遺影向きの写真を選び、現像してわかりやすく保管しておきましょう。遺影は基本的に肩から上の顔写真を引き伸ばします。集合写真などから故人部分だけ拡大して使うことも可能ですが、画質が粗くなるため可能なら本人のみで写っている写真を用意しておくと良いです。笑顔の写真か落ち着いた表情か、背景はどうするか、といった好みも人それぞれですので、自分の希望する遺影のイメージがあればそれも家族に伝えておきます。
生前準備で遺影写真まで用意しておけば、いざ葬儀というとき家族が写真探しに奔走する手間が省け、何より自分が納得した写真で送り出してもらえるというメリットがあります。ぜひ前向きに検討してみてください。
7. 遺族への希望を伝える(参列者、香典、供花など)
葬儀について決めておきたいことには、形式や費用だけでなく細かな希望事項も含まれます。とくに葬儀当日に関する具体的なリクエストは、生前に明文化しておかないと遺族には伝わりません。ここでは遺族にあらかじめ伝えておきたい主な希望事項を挙げます。
誰に参列してほしいか
自分の葬儀に「ぜひこの人には来てほしい」という友人・知人や親戚がいればリスト化しておきます。危篤時に連絡してほしい人の連絡先リストを用意しておくと、そのまま葬儀の会葬者リストとしても使えます。逆に特別の事情で「この人には知らせなくて良い」という希望がある場合も含め、連絡範囲を指定しておきましょう。
香典を受け取るか辞退するか
香典(こうでん)とは参列者が持参する金銭のことで、葬儀費用の一部を助け合いで補填する日本の習慣です。香典を頂いた場合、後日「香典返し」というお返しを贈るのが一般的ですが、最近は家族葬などで香典を辞退するケースも増えています。香典辞退の意向がある場合は、生前に家族へその旨を伝えておきましょう(訃報連絡の際に「故人の遺志により香典はご遠慮申し上げます」と案内してもらうことになります)。香典を受け取る場合でも、「香典は葬儀費用に充て、残れば○○に寄付してほしい」など具体的な希望があれば記しておくと良いでしょう。
供花・供物の扱い
葬儀では故人へ献花・献供される供花(きょうか)や供物があります。生花スタンドや花輪、果物籠などが一般ですが、これも辞退することが可能です。多数の供花供物が届くと飾りきれなかったり後処理の手間もかかるため、家族葬では「供花・供物も辞退」とする場合があります。自分の希望として供花を遠慮したい場合や、特定の宗教的供物(例えばお酒や果物など)は控えてほしい等あれば事前に伝達します。一方で「生前好きだった○色の花で送ってほしい」といったリクエストもあるでしょう。その場合はぜひ遠慮なく伝えておきましょう。希望が書いてあれば、遺族もそれに沿って準備しやすくなります。
葬儀の演出に関する希望
最近では故人の人柄を偲ぶために、葬儀でお気に入りの音楽を流したり思い出の映像を映す演出を取り入れることもあります。もし「自分の葬儀ではこの曲を流してほしい」「思い出の写真スライドをしてほしい」等の具体的な希望があれば、これも事前に書き残しておくとよいでしょう。ただし演出の可否は会場設備によりますので、実現したい場合は会場選びの段階で確認が必要です。
その他の細かな希望
喪主を誰に務めてほしいか(※多くは配偶者や長子が務めますが、事情により指定したい場合)、遺影写真の飾り方(額縁やリボンの色など)、会葬礼状に載せるメッセージ(※生前に葬儀参列者へのお礼メッセージを残す人もいます)など、気になる点は何でも書き留めておきましょう。
上記のような希望事項は、遠慮せず細かいことまで伝えておくことが大切です。【「書いておかないと周りの人は気づくことができません」】。生前に伝えていなければ、遺族は故人の本当の望みを知る由もなく、一般的なやり方で葬儀を進めるしかありません。ぜひエンディングノートや別紙メモに具体的なリクエストを書き残しておきましょう。そうすることで「自分の希望通りの葬儀」になり、参列者にとっても故人らしさが感じられる心に残る式となるはずです。
8. 遺骨の扱いをどうするか(埋葬、納骨堂、散骨など)
葬儀・火葬が終わった後、ご遺骨(遺灰)をどのように扱うかも大切な事項です。日本では火葬後の遺骨は四十九日法要の頃にお墓に納骨するのが一般的でしたが、昨今は多様な供養の形が選べるようになっています。生前に自分の遺骨をどこに納めてほしいか、どのように供養してほしいかを決めて、家族に伝えておきましょう。主な選択肢には以下のようなものがあります。
従来のお墓に埋葬
先祖代々のお墓や、自分で用意したお墓に遺骨を納める方法です。寺院墓地や公営・民営霊園の墓地に埋葬します。家族墓に入る場合は親族の理解も得やすいですが、墓石の管理や承継者の問題があります。

永代供養墓
子や承継者に負担を掛けたくない場合に人気です。寺院や霊園が永代にわたり遺骨を供養・管理してくれる合同墓で、一定期間個別に安置した後他の遺骨と合祀される形が一般的です。費用は比較的安価ですが、いずれ合祀される点を親族がどう思うか配慮も必要でしょう。
納骨堂
屋内施設にロッカー状または仏壇状のスペースを設け、遺骨の骨壺を安置する供養方法です。都市部を中心に増えており、天候に左右されずお参りできる利点があります。契約期間終了後は永代供養墓に合祀されるケースもあります。

樹木葬
霊園内のシンボルとなる樹木の下に遺骨を埋葬するスタイルです。墓石を置かず、自然に還るイメージから人気があります。個別区画を設けプレートを設置するタイプや、一本の樹木を複数人で共有するタイプなどがあります。

散骨
遺骨を粉状に砕いて海や山などに撒き、自然に帰す供養です。故人が愛した場所やゆかりの地に散骨することを希望する方もいます。ただし法律上は節度をもって行えば問題ないとされるものの、土地所有者や周囲の理解を得て行う必要があります。また散骨すると手元に遺骨が残らないため、後から「やっぱり墓を作ればよかった」と後悔しないよう慎重に判断しましょう。

手元供養
遺骨を手元に置いて供養する方法です。骨壺を自宅に置く他、ごく一部の遺骨でペンダント等のアクセサリーを作成して常に身につけるといった形もあります。近年は遺骨を特殊な方法でプレート状やダイヤモンド状に加工するサービスもあります。

このように様々な供養法がありますが、選択によって必要な手続きや費用も変わります。お墓以外を選ぶ場合、親族の理解を得にくいケースもあるため、生前にしっかり家族と話し合っておくことが大切です。例えば散骨を希望するなら専門業者の手配が必要になりますし、永代供養を選ぶならどの寺院・霊園にするか契約が必要です。本人が事前に決めておけば、死後の手続きを家族がスムーズに進められます。逆に何も決めていないと、「遺骨をどうするか」という難しい判断を遺族が迫られることになります。
ぜひ自分の供養のあり方についても考えを巡らせ、希望をエンディングノート等に残しておきましょう。「○○家の墓に入れてほしい」「○○の海に散骨してほしい」など、具体的に書いておくほど家族も迷いません。遺骨の行き先は自分の人生の締めくくりにも関わる大切な要素ですから、納得のいく形を選んでください。
9. エンディングノートの活用と書き方
ここまで述べてきた葬儀に関する希望事項を含め、人生の最終段階についての希望や必要情報をまとめておくノートを一般に「エンディングノート」または「終活ノート」と呼びます。【エンディングノートとは、終末期や死後に家族が判断・手続きする際に必要な情報を残すためのノート】であり、資産や葬儀に関する希望、各種連絡先、家族へのメッセージなど自由に記入できます。遺言書と違って法的効力はありませんが、残された家族にとっては大きな指針となる遺品です。
エンディングノートはぜひ作成しておくことをおすすめします。市販のテンプレートや自治体が配布するノート、ノート形式がなければパソコンで項目リストを作って印刷したものでも構いません。大事なのは自分の意思や情報を書き残すことそのものです。エンディングノートに書いておくべき項目の例を挙げます。
-
本人の基本情報(生年月日や本籍、マイナンバーなどの重要情報)
-
資産・財産の一覧(銀行口座、保有する不動産・有価証券、保険契約など)
-
延命治療や臓器提供に関する希望(尊厳死の意思、有事の医療について)
-
葬儀に関する希望(どんな葬儀にしてほしいか、使ってほしい遺影写真、用意してある葬儀費用、葬儀に来てほしい人のリスト、お墓の希望など)
-
連絡先リスト(親族・友人・恩師など関係者の氏名と電話番号)
-
デジタル情報(SNSやパソコン、スマホのロック解除方法やID・パスワードの一覧)
-
ペットの扱い(ペットがいる場合、死後に誰に託すか等)
-
家族へのメッセージ(感謝の言葉や伝えておきたいこと)
上記は一例で、項目に決まりはありません。自分に必要と思うことから書き始め、途中で何度見直して追記・修正しても構いません。重要なのは、エンディングノートを書いて家族に所在を知らせておくことで、万が一の際に家族が迷わず対処できるという点です。葬儀について言えば、ノートに希望を書いておくことで遺された家族はその通りに準備を進めやすくなり、精神的な負担が軽減されます。実際「エンディングノートに口座情報や友人の連絡先がまとまっていて助かった」「葬儀の希望が書いてあり迷わずに済んだ」という声も多いようです。
なおエンディングノート自体には法的効力がないため、財産の分配など法律事項は遺言書として正式に残す必要があります。エンディングノートはあくまで家族へのプレゼントであり、自分の人生を振り返り整理するプロセスともなります。難しく考えず、思いつくことから少しずつ書き進めてみましょう。市販ノートではなく白紙のノートにオリジナルで書いてももちろんOKです。書式よりも、気持ちがこもっていることが大事です。完成したら家族に存在を伝え、保管場所を知らせておくのを忘れないようにしてください。

10. 葬儀社の選び方と事前相談の重要性
最後に、信頼できる葬儀社を選んでおくことと、生前の事前相談の大切さについて説明します。実際の葬儀を執り行う際には葬儀社のサポートが不可欠ですが、「どこの葬儀社に依頼するか」は葬儀の内容・費用にも大きく影響します。良い葬儀にするためには、いかに良い葬儀社を選ぶかが重要です。
しかし現実には、多くの人は家族が亡くなるまで葬儀社の情報収集を行っていません。突然の不幸で時間がない中、慌てて決めて「もっと○○してあげればよかった…」と後悔するケースも少なくありません。そうならないために、ぜひ生前のうちに「葬儀社の事前相談」をしておきましょう。
事前相談とは、葬儀社に連絡して生前から葬儀について具体的な相談や見積もりをさせてもらうことです。多くの葬儀社は無料で事前相談に応じており、希望すれば担当者が葬儀の流れやプラン、費用について丁寧に説明してくれます。「こんな葬儀にしたい」という要望を伝えておけば、叶えるためのプランを提案してもらえますし、葬儀社ごとのサービスの違いも見えてきます。複数社を比較検討した上で、信頼できる葬儀社を選定しておくのが理想的です。
事前相談を行うメリットは他にもあります。葬儀のマナーや段取りについて知識を深められる点もその一つです。葬儀社に相談すれば、式の進行手順やお布施・香典などお金のマナーまで色々と教えてもらえます。また、事前相談の際に仮の見積書を出してもらえば、葬儀費用の具体的な金額を把握できます。予算オーバーになりそうであれば事前にプランを見直すこともできますし、生前契約を結んで前払いしておくことも可能です。年月が経てば状況が変わることもありますが、その場合は契約内容を更新・変更すれば良いだけです。何も準備していない場合と比べ、事前に相談・契約してあれば慌てずに済みますし、遺族の負担も格段に減ります。
葬儀社選びのポイントとしては、料金だけで飛びつかず、スタッフの対応や信頼感を重視することが大切です。事前相談で担当者と話してみて、こちらの希望に親身になって応えてくれるか、費用やプラン内容を明確に説明してくれるか、といった点を確認しましょう。厚生労働省認定の葬祭ディレクター資格を持つスタッフがいる会社だと安心感がありますが、最終的には相性も含め**「この人たちに任せたい」と思える葬儀社**を選ぶのが一番です。万一、地元に信頼できる葬儀社が無い場合は、市や町の広報誌で紹介されている葬儀相談窓口や、友人知人の口コミなども参考にしてください。
生前に葬儀社と関わりを持っておくことで、もしもの時にすぐ連絡して駆けつけてもらえるという利点もあります。深夜・休日でも24時間対応の葬儀社であれば、危篤時や死亡直後に電話一本で遺体の搬送から安置まで手配してくれます。事前に相談・登録しておけば、連絡先リストの先頭にその葬儀社を記載しておくだけで安心です。
以上、葬儀について生前に決めておきたい主要な項目を解説しました。最後に、今回取り上げた10項目のチェックリストを示します。終活の際にご活用ください。
生前に決めておきたい葬儀準備チェックリスト
-
葬儀を行うか否か(葬儀の有無)を決め、家族に伝えた
-
希望する葬儀の形式・規模を決めた(一般葬・家族葬・一日葬・直葬など)
-
葬儀の宗教形式を決めた(仏教式・神道式・無宗教など)。仏式の場合宗派の確認もした
-
葬儀を行う場所の希望を決めた(自宅・葬儀会館・寺院など)
-
葬儀費用の概算を把握し、費用負担者を家族で合意した
-
葬儀費用の準備方法を手配済み(預金の確保・保険加入・互助会積立・生前契約など)
-
遺影写真を準備した(または遺影に使ってほしい写真を指定した)
-
参列者の範囲を決め、連絡先リストを用意した
-
香典や供花の扱いについて希望を決めた(受け取る/辞退等)
-
納骨・供養方法の希望を決めた(〇〇家の墓に埋葬、〇〇に散骨、等)
-
上記の内容をエンディングノートに記入し、家族に共有した
-
葬儀社の事前相談を行い、信頼できる葬儀社の目星をつけた
チェックリストを参考に、一つずつ準備を進めてみてください。すべてを完璧に決めておく必要はありません。大切なのは終活を通じて自分の意思を整理し、できる範囲で家族に思いを伝えておくことです。その積み重ねが、いざという時に残された家族への最大の助けとなります。
人生の最終章を自分らしく演出し、家族に負担を残さないために――生前の備えをしっかり整えて、安心して日々をお過ごしください。家族への思いやりと前向きな終活の姿勢が、きっと豊かな人生の締めくくりにつながることでしょう
