葬儀のことは、家族が行うもの——そう考えてきた人にとって、「自分には頼れる人がいない」と気づいたときの不安は計り知れません。
特に独身や配偶者に先立たれた高齢者にとって、自分の死後、火葬や納骨がどうなるのか、誰が手続きをしてくれるのかといった現実的な悩みが、ふとした瞬間に心をよぎることもあるでしょう。
そんな不安に備える手段のひとつが、「小さなお葬式」の生前契約です。本記事では、葬儀の準備だけでなく、死後の手続きも委任できる生前契約の仕組みと内容を、具体的に解説していきます。
目次
「小さなお葬式」の生前契約とは？
生前契約とは、本人が自分の死後に備え、葬儀の形式・内容・予算をあらかじめ取り決めておく制度のことです。「小さなお葬式」では、葬儀の準備だけでなく、希望に応じて納骨先や死後事務の手続きまで含めて契約できます。
家族や身寄りがいない方にとっては、自分の死後を他人任せにしないための現実的な備えになります。必要な費用を前払いし、信託会社と弁護士が保管・管理するため、本人が亡くなった後も、適切な形でサービスが実行される仕組みになっています。
生前契約で何ができる？
「小さなお葬式」の生前契約は葬儀の形式を前もって決めるだけでなく、プランによっては死後の事務手続きまで依頼できます。
- 任せてあんしんプラン
身寄りがいない方向け。葬儀から納骨、死後の行政手続きまで代行。 - 選んであんしんプラン
家族がいる方向け。本人の希望を残し、葬儀内容を指定できる。
どちらも契約時に費用を前払いする仕組みのため、遺族や周囲に金銭的・精神的な負担を残さずにすむのが特長です。
身寄りがいない人にも対応
親族がいなくても、葬儀や納骨を第三者に任せられる仕組みがあります。
通常、葬儀や火葬の手続きは喪主や親族が行うことを前提としています。しかし、身寄りのない方にとっては、その役割を担う人がいないため、遺体の引き取りや火葬が行われず、無縁仏になるおそれもあります。
この点に対応するのが「任せてあんしんプラン」です。契約時に死後事務委任契約を結ぶことで、弁護士や葬儀会社スタッフが死亡届の提出や火葬・納骨の手続きを代行します。
親族がいない方でも、自分の希望通りに見送られる仕組みが整えられているのが特徴です。
小さなお葬式の「生前契約サービス」とは？特徴・流れと終活におけるメリットを解説
信託会社と弁護士による管理
契約後に支払った葬儀費用は、信託会社と弁護士が安全に保管します。
この仕組みにより、万が一葬儀社が倒産した場合でも、預けた費用は全額返金されます。また、生前契約プランを利用しなかった場合や契約を解約した場合も、返金の対象となります。
契約から葬儀の実施までの間、費用が失われる心配がないよう、信託制度によって保護されている点が大きな特徴です。
2つのプランとその違い
「小さなお葬式」の生前契約には、大きく分けて2つのプランがあります。対象となるのは「任せてあんしんプラン」と「選んであんしんプラン」の2種類です。
任せてあんしんプランは身寄りのない方向けで、小さなお別れ葬や小さな火葬式といったシンプルな直葬形式に対応しています。一方、選んであんしんプランは喪主や家族がいる方向けで、火葬式・一日葬・家族葬・一般葬など幅広い形式から選べる仕組みです。
ここでは、それぞれの特徴と費用の違いを整理し、自分に合った選択肢を考える手がかりを紹介します。
1. 任せてあんしんプラン
身寄りのない方が、死後の手続きをすべて委ねられるプランです。
- 対象者
喪主や家族がいない方向け - プラン内容
1. 小さなお別れ葬＋納骨：217,000円（税込）
2. 小さな火葬式＋納骨：363,000円（税込）
※いずれも通夜・告別式を行わない直葬形式
※火葬料金別 - 納骨方法
永代供養墓・海洋散骨・指定の納骨先から選択可能
※永代供養墓は納骨後すぐに合祀 - 注意点
菩提寺がある場合は、契約前に必ず相談が必要 - 特長
死亡後の事務手続きから葬儀・納骨まで一括で依頼できる
契約と支払いを済ませておけば、死後の手続きが滞る心配を減らし、自分の望む形で見送られる体制を準備できます。
2. 選んであんしんプラン
喪主や家族がいる場合に、自分の希望を葬儀に反映させるためのプランです。
- 対象者
喪主や家族がいる方向け - プラン内容
1. 小さなお別れ葬：99,000円（税込）〜
通夜・告別式を行わず、火葬のみで見送る形式
2. 小さな火葬式：165,000円（税込）〜
直葬に必要な最低限の内容を備えた火葬プラン
3. 小さな一日葬：374,000円（税込）〜
告別式のみを一日で行うシンプルな形式
4. 小さな家族葬：484,000円（税込）〜
家族や親しい人でゆっくり送る小規模葬儀
5. 小さな一般葬：649,000円（税込）〜
一般参列者も迎えられる従来型の葬儀
※一部式場ではプラン料金以外に式場利用料等が発生
※火葬料金別 - オプション費用
1口10万円〜で供花・棺・寺院手配などに利用可 - 特長
本人の希望を事前に記録し、当日の葬儀に反映できる
葬儀の詳細を家族に伝えにくいと感じている方にとって、自分の意思を形にできる実践的な方法といえます。
プラン別の比較表
2つのプランの違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 任せてあんしんプラン | 選んであんしんプラン |
|---|---|---|
| 対象者 | 身寄りがいない方 | 喪主や家族がいる方 |
| 葬儀形式 | 小さなお別れ葬・小さな火葬式 （直葬のみ） |
小さなお別れ葬・小さな火葬式・小さな一日葬・小さな家族葬・小さな一般葬 |
| 費用目安（税込） | 217,000円〜 / 363,000円〜 | 99,000円〜649,000円程度 |
| 納骨方法 | 永代供養墓・海洋散骨・指定納骨先から選択 | 原則として遺族が対応 |
| 死後事務委任契約 | あり（死亡届・火葬許可取得・納骨手続きなど） | 原則なし（必要に応じて家族が対応） |
| 特徴 | 死後の手続きをすべて委任できる総合型プラン | 本人の意思を葬儀に反映できる柔軟なプラン |
両者の大きな違いは、「死後の事務を誰が担うか」と「選べる葬儀形式の幅」です。
身寄りがない場合は、死後事務委任契約を含む任せてあんしんプランが現実的な選択になります。一方で、家族がいる場合は、本人の希望を反映させつつ柔軟に式を選べる選んであんしんプランが適しています。
自分の立場や希望に照らして、どちらが合うかを検討するとよいでしょう。
迷ったときはどうすればいい？
どちらのプランが適しているかは、家族関係や希望する葬儀の形によって変わります。
- 任せてあんしんプランが合うケース
身寄りがない、または遺族に負担をかけたくない場合。死後事務委任契約により、葬儀から納骨までを一括して任せられます。 - 選んであんしんプランが合うケース
喪主や家族がいる場合。火葬式から一般葬まで幅広い形式を選べ、本人の意思を残しておけます。
判断に迷うときは、自分の立場を整理し、公式サイトの無料相談や資料請求で詳細を確認するのがおすすめです。契約前に疑問点を解消しておけば、後悔のない選択につながります。
生前契約から葬儀実施までの流れ
生前契約は、一度申し込んで終わりではありません。正式契約から葬儀当日まで、いくつかの段階を経て進められます。
「小さなお葬式」の生前契約は、仮申込から始まり、書類の提出、費用の支払い、そして契約証明書の受け取りという順を踏みます。契約内容は信託会社と弁護士によって厳重に管理され、本人の死亡後に滞りなく実行されます。
特に「任せてあんしんプラン」では、死後事務委任契約の締結も必要になるため、手続きの流れを正しく理解しておくことが大切です。
ここでは、そのステップを具体的に解説します。
契約成立までのステップ
「小さなお葬式」の生前契約は、申込みから契約完了までおよそ1か月を要します。流れは以下のように進みます。
このように、契約が有効になるまで一定の準備期間があるため、検討から実行まで余裕を持って進めることが大切です。
STEP.1 仮申込み
電話または公式サイトから資料請求・申込みを行います。申込み後、必要な書類が自宅に郵送されるため、まずは内容を確認し、不明点があれば相談窓口で解消しておきましょう。
STEP.2 申込用紙の返送
届いた申込用紙に記入し、本人確認書類や契約内容確認書を添えて返送します。任せてあんしんプランを選ぶ場合は、死後事務委任契約書への署名・捺印も必要です。
返送から審査完了まではおよそ2週間が目安です。
STEP.3 入金
必要書類が確認されると、指定口座への入金案内が届きます。案内に従って契約料金を振り込むと、契約成立に向けた準備が進みます。
STEP.4 本契約
入金が確認されると、契約が正式に成立します。
およそ1か月後に「契約証明書」と「生前契約者カード（2枚）」が自宅に届きます。1枚は常に携帯し、もう1枚は自宅や施設で保管しておくことで、死亡時に迅速な対応が可能になります。
葬儀実施までの流れ
契約成立後、実際に葬儀が執り行われるまでの手順は、選ぶプランによって異なります。以下は、公式サイトを元に流れを整理したものです。
| 流れ | 任せてあんしんプラン | 選んであんしんプラン |
|---|---|---|
| 生前 | 仮申込み → 内容確認 → 契約完了 | 仮申込み → 内容確認 → 契約完了 |
| ご逝去当日 | ご遺族等からの連絡 → ご安置 | ご遺族からの連絡 → ご安置 → 打ち合わせ |
| ご逝去日以降 | 納棺 → 出棺 → 納骨（永代供養・海洋散骨など） | 納棺 → 出棺 → （プランに応じて通夜式・告別式を実施） |
※1 通夜式は「小さな家族葬」「小さな一般葬」にのみ含まれます。
※2 告別式は「小さな一日葬」「小さな家族葬」「小さな一般葬」にのみ含まれます。
※3 選んであんしんプランには納骨は含まれていません。
任せてあんしんプランでは、親族がいなくても死後事務委任契約に基づき火葬と納骨が実施されます。
一方、選んであんしんプランでは、契約時に本人が選択したプランに沿って葬儀が実施されます。また、納骨はプランに含まれていないため、別途手配が必要です。
契約を確実に実行するために
せっかく生前契約を結んでも、死亡後に誰も連絡しなければ契約は実行されません。特に一人暮らしの場合、死亡の発見が遅れて契約が活かされない可能性もあります。
これを防ぐには、信頼できる第三者に「生前契約をしている」ことを伝えておくことが大切です。施設に入所している場合は、職員にカードの保管場所や連絡手順を知らせておきましょう。さらに、近隣住民や地域包括支援センターなど、日常的につながりのある人へ共有しておくことも有効です。
小さな配慮が、契約を確実に実行するための大きな備えになります。
生前契約の注意点とよくある疑問
「小さなお葬式」の生前契約は、信託会社・弁護士・葬儀社が連携する安心の仕組みですが、万能ではありません。本人の意図がうまく反映されないケースや、施設との連絡が行き違う例も考えられます。また、契約後の変更やキャンセルはできるのか、費用はどこまで返ってくるのかといった点は、多くの人が気になるところです。
この章では、事前に知っておきたい注意点と、よくある質問を整理して解説します。
生前契約の注意点
制度として整えられてはいるものの、生前契約を検討する際にはいくつか確認しておくべき点があります。
契約内容を正しく理解していないと、せっかくの仕組みが活かせない場合があります。特に、契約後の連絡体制や変更・解約時の取り扱いは重要です。
ここでは公式サイトに記載された注意事項をもとに、押さえておきたいポイントを整理します。
- 契約を周囲に必ず伝える必要がある
家族や施設スタッフに知らせていないと、他の葬儀社に手配されてしまい契約が実行されない恐れがあります。 - 定期的な連絡が必要
1年ごとに契約確認の連絡があり、5年間応答がなければ自動的に解約されます。住所や連絡先が変わったときは必ず届け出る必要があります。 - プラン変更や解約にかかる費用
プラン変更には信託手数料5,500円（税込）、解約や他社での葬儀実施には解約手数料10,000円（税込）が差し引かれて返金されます。 - 地域によっては利用できない場合もある
火葬場の状況などにより、希望の地域で利用できないケースがあります。事前に確認しておくことが大切です。
こうした点を把握しておけば、契約後に想定外のトラブルが起こるリスクを抑え、安心して利用できるようになります。
よくある質問
ここでは、事前に知っておくべき代表的な質問とその答えをまとめました。契約内容を理解してよりよい判断をするために、ぜひ参考にしてください。
契約後のキャンセルや返金はできますか？
原則として可能で、費用の一部または全額が返金されます。
ただし金額は契約内容や時期により異なり、手数料が差し引かれる場合もあります。任せてあんしんプランのように信託口座を利用している場合は、返金手続きに時間を要することもあるため、解約規定を事前に確認しておきましょう。
火葬場や納骨先は自由に選べますか？
地域によっては希望する火葬場や納骨方法が利用できない場合があります。永代供養墓や散骨も実施地域や提携先に限りがあるため、契約前に対応可否を確認しておくことが大切です。
生前契約はいつ結ぶのが良いですか？
本人の判断力がしっかりしているうちに結ぶのが基本です。認知症や病状によっては契約できない場合もあるため、将来に備えたいと感じた段階で進めるのが安心です。
契約後に内容を変更できますか？
事情に応じて変更は可能ですが、再契約や追加費用が発生する場合があります。寺院手配や散骨方法を変えるときは調整が必要になるため、早めに相談窓口へ連絡するのがおすすめです。
「小さなお葬式」の生前契約でかなえる自分らしい見送り
「小さなお葬式」のプランでは、喪主や身寄りがいない方には任せてあんしんプラン、喪主や家族がいる方には選んであんしんプランと、それぞれの状況に応じた仕組みが用意されています。
契約は信託会社と弁護士の管理下で保護され、費用面や実行面の不安を抑えられるのが特徴です。注意点を理解したうえで契約すれば、死後の事務や葬儀の段取りが滞る心配を減らすことができます。
将来に備えて「自分の最期をどうしたいか」を考えるきっかけとして、生前契約を活用するのは有効な選択肢といえるでしょう。
