「墓じまい」とは、先祖代々のお墓から遺骨を取り出して墓石を撤去し、墓地を更地に戻すことを指します。簡単に言えば、お墓を閉じて片付ける作業のことです。ただし、遺骨を勝手に捨てたり他所へ移したりすることは法律で禁止されています。必ず新しい納骨先(改葬先)を決めてから、市町村の許可(改葬許可証)を得て進める必要があります。近年では、遺骨の取り出しから新しい供養先での埋葬(改葬)完了までをまとめて「墓じまい」と呼ぶようになっています。
目次
墓じまいが必要とされる背景
核家族化や少子高齢化の進行に伴い、「お墓の継承」が難しくなってきました。昔は長男が代々お墓を守るのが当たり前でしたが、今では子どもが遠方に住んでいたり、そもそも子どもがいなかったりする家庭も増えています。その結果、「自分たちの代でお墓を片付けておき、子孫に負担を残さないようにしたい」と考える人が増えているのです。また実家を離れて暮らす人にとって、遠方のお墓の管理・お参りを続けるのは難しく、「気持ちはあっても維持ができない」という現実的な問題もあります。このような状況から、「墓じまい」は今や特別なケースではなく、多くの人にとって選択肢の一つとなりつつあります。
墓じまい増加の傾向
厚生労働省の統計によれば、年間の改葬(=お墓の引っ越し、墓じまいを含む)件数は、2003年度の約38,000件から、2023年度には166,886件と20年で4倍以上に増加しています。この急増は、少子化による後継者不足やライフスタイルの変化により「お墓を持たない」「墓じまいをする」という選択肢が広く認知・実行され始めたことを表しています。日本ではまだ先祖代々の墓を大事に思う文化が根強く、墓じまいには抵抗感を持つ方もいます。しかし、後継者がいないままお墓を放置すると無縁墓(管理する人がいないお墓)になってしまうため、「将来無縁墓にしないための前向きな整理」として墓じまいを検討する人が増えているのです。
なお、仏教的な観点から見ても、お墓そのものより大切なのは故人への追善供養の気持ちです。物理的なお墓の形は変わっても、ご先祖様を敬い供養する心があれば決して不敬になることはありません。お墓を移す(改葬する)際には後述する閉眼供養(魂抜き)など適切な儀式を行い、ご先祖様に感謝と報告をすれば、仏教上の問題はなく安心して進められます。むしろ管理が行き届かず荒れた墓所にしてしまうより、新たな場所で手厚く供養する方がご先祖も喜ぶという考え方もあります。
墓じまいの具体的な進め方(改葬手続きのステップ)
墓じまいをスムーズに行うためには、いくつかの段取りを踏む必要があります。ただ単にお墓を壊せば良いわけではなく、役所への申請やお寺への依頼などさまざまな手続きを事前に済ませなくてはなりません。一般的には次のような7つのステップで進めます。
1.親族・家族に相談し同意を得る
まず最初に、近親者に墓じまいの意思を伝えて十分に話し合いましょう。特にご兄弟や親戚など、自分以外にもお墓に思い入れのある人には事前に相談し、墓じまい後の遺骨の扱いや供養方法、費用負担について納得を得ておくことが重要です。勝手に決めて進めると、「いつの間にか墓を片付けられた!」とトラブルになる恐れがあります。まずは丁寧に状況を説明し、「後継ぎがいない」「遠方で維持が難しい」など墓じまいを考える理由を共有しましょう。可能なら親族にも手伝いや理解をお願いし、「みんなで問題を解決する」という姿勢で合意形成を図ります。
2.新しい遺骨の埋葬先(改葬先)を決める
次に、移動させたご遺骨をどこで供養するか決めます。法律により遺骨は必ず許可を得た埋葬施設に納める必要があるため、自宅など勝手な場所に埋めることはできません。一般的な選択肢としては、(A)新たな墓地を購入して建墓する、(B)永代供養墓(合祀墓)に納骨する、 (C)納骨堂に収蔵する、 (D)樹木葬墓地に埋葬するなどがあります。後述しますが、それぞれ費用や供養方法が異なるため、希望する供養の形態に合った改葬先を検討しましょう。また改葬先の管理者から「受入証明書」(遺骨を受け入れることを証明する書類)を発行してもらう必要があるため、候補が決まったら早めに問い合わせておきます。
3.現在のお墓の管理者(寺院や霊園)に相談する
改葬を進める際は、今使っているお墓の管理者(寺院住職や霊園管理事務所)にも事前に相談します。現在の墓地を契約解除する手続きや、「埋葬証明書」(その墓に遺骨が埋葬されている証明書)の発行などでお世話になるためです。菩提寺(お寺)の墓地にある場合は、住職に墓じまいの経緯を丁寧に説明し理解を得ましょう。「離檀(檀家をやめること)」の手続きが伴うため、お寺へのお礼(離檀料)の相談や、後述の閉眼供養の日程調整なども含めて話し合っておくと安心です。
4.市区町村で改葬許可申請を行う
新旧双方の受け入れ態勢が整ったら、改葬許可申請の手続きを行います。現在のお墓の所在地を管轄する市町村役場で「改葬許可申請書」を入手・提出し、改葬許可証を発行してもらいます。申請には上記の「埋葬証明書」(今の墓から)と「受入証明書」(新しい納骨先から)を添付し、申請者の本人確認書類を提示します。遺骨が複数ある場合は遺骨1柱(ひとはしら)ごとに許可が必要なので、人数分の申請書類を用意してください。役所への申請は郵送でも可能な自治体があります。許可証の発行まで数日~数週間かかるので、日程に余裕を持ちましょう。
5.閉眼供養(魂抜き)の法要を行う
改葬許可証を受け取ったら、実際に遺骨を取り出す日に閉眼供養(へいがんくよう)の儀式を行います。閉眼供養とは、お墓に宿っているご先祖様の魂を抜き、お墓を閉じる仏教儀式です。菩提寺や宗派のお寺に依頼して、お坊さんにお経をあげてもらいましょう。宗派によって作法が異なりますが(例:浄土真宗では魂抜きの概念がありません)、いずれにせよ 「今までこのお墓を守ってくださったご先祖に感謝し、霊魂にお墓から抜け出していただく」 大切な儀式です。閉眼供養の後、ご家族でお線香を手向けたり最後にお墓へ水をかけたりしてお別れをします(住職の指示に従いましょう)。この法要のお布施相場は僧侶に3~5万円程度が一般的です。
6.墓石の解体・撤去工事を依頼する
閉眼供養が終わったら、いよいよ墓石を撤去します。あらかじめ依頼しておいた石材店や墓じまい専門業者により、墓石の解体工事が行われます。遺骨の取り出しも含めてプロに任せるのが一般的で、閉眼供養の当日に立ち会いながら遺骨を取り出すことも可能です。 墓じまい工事では、石材店が重機を使って墓石を解体・撤去します。墓石撤去費用は一般に1㎡あたり約10万円前後が目安です。大きなお墓ほど費用は高くなりますが、立地条件や石材の重量によっても変動します。 墓石解体後、墓地は更地に整地され、使用権が墓地管理者へ返還されます。寺院墓地の場合、指定業者しか工事できないケースもあるため、業者選定は事前に管理者に確認しておきましょう。工事期間はお墓の規模にもよりますが、数日~1週間程度で完了することが多いです。
7.新しい納骨先で遺骨を安置する
撤去したお墓から取り出した遺骨は、新たな供養先に移しましょう。改葬許可証を新しい墓所の管理者(寺院や霊園)に提出し、所定の手続きを経て納骨します。例えば永代供養墓や納骨堂に移す場合は、納骨式(のうこつしき)というお坊さん立会いの法要を行うこともあります。遺骨が長年土中にあった場合は湿気で骨壷が汚れていることもあるので、「洗骨(せんこつ)」という洗浄・乾燥処理をしてから納めることもあります。新しい供養先での埋葬方法に従い、無事に遺骨を納め終えれば墓じまいの完了です。以降は新しい場所でご供養を続けていきます。
僧侶による閉眼供養の様子。お墓の解体前に、墓前で読経を行いご先祖様の魂を抜く儀式をします。このように仏教の作法に則って供養することで、墓じまい後も先祖の霊がしっかりと慰められるとされています。
役所手続きのポイント
墓じまいには行政手続き(改葬許可)が伴うため時間がかかります。公営・民営墓地なら申請から許可証取得まで数週間~数ヶ月、寺院墓地なら檀家との調整も含め半年程度かかることもあります。余裕を持った計画を立てましょう。また改葬許可申請書は遺骨の数だけ必要になるため、実際埋葬されている遺骨の人数を事前に把握しておくとスムーズです(古いお墓だと中を開けるまで人数不明なケースもあります)。書類の書き方や不明点は自治体窓口で相談できますので、一人で悩まず問い合わせると安心です。
専門業者への依頼
墓じまい作業を一括サポートしてくれる業者も多数あります。行政手続きの代行、石材店や住職との調整、新たな永代供養先の紹介までセットになったプランもあるので、「自分たちだけで進めるのは不安」という場合はそうしたサービスの利用も検討しましょう。費用はかかりますが、その分手間や労力を大きく軽減できます。自治体によっては墓じまい費用に対する補助金を用意しているところもあるので確認しておくのもおすすめです。少子高齢化で管理不能なお墓が増えることを見越した施策で、条件に合えば補助が受けられる場合があります。お住まいの地域の制度をホームページや窓口で確認してみるとよいでしょう。
墓じまいにかかる費用相場(項目別)
墓じまいに必要な費用は状況によってさまざまですが、大きく分けると「お墓の解体撤去に関わる費用」と「遺骨を改葬・供養する費用」の2つが中心となります。一般には両者を合わせた総額で約50万~200万円程度になるケースが多いと言われます。ここでは主な費用項目とその相場を項目別に紹介します。
費用項目 | 一般的な費用相場 | 補足・内容 |
---|---|---|
墓石の解体・撤去費用 | 約10万円/㎡前後 | 墓石の解体工事代・廃材処分費用。墓石の大きさや立地条件で金額変動。更地戻しの整地費用含む。 |
閉眼供養のお布施 | 3万~10万円 | 僧侶に読経してもらう謝礼。金額は目安で、宗派やお寺との関係によって異なる。 |
離檀料(寺院へのお礼) | 0~20万円程度 | 菩提寺の檀家を離れる際に寺院に渡すお礼。【法的義務ではないが、過去のお布施1回~3回分を包む例が多い】。寺院や地域により慣習が異なる。 |
改葬許可申請手数料 | 数百円~1,500円程度 | 自治体や墓地管理者に支払う書類発行手数料。自治体によって無料のところもあるが、証明書発行に数百円かかる例が多い。 |
新たな供養先の費用 | 数万円~数百万円 | 改葬先(永代供養墓、納骨堂など)の利用料。供養方法やプランにより大きく異なる(下記参照)。 |
※上記はあくまで一般的な目安です。実際の費用は各家庭や墓所の状況、新しい供養先の種類によって大きく変動しますので、具体的な見積もりを取り確認することが大切です。
親族への説明・説得のポイント(トラブルを防ぐには)
墓じまいを進めるにあたり、親族の理解と協力を得ることはとても重要です。先祖代々のお墓を片付けることに抵抗を感じる方もおり、価値観の違いから親戚間で揉めるケースも少なくありません。円満に墓じまいを実行するために、以下のポイントに留意して親族とコミュニケーションを図りましょう。
最初から一人で決めず、相談ベースで始める
墓じまいはデリケートな問題なので、既成事実のように伝えるのは避けます。「実はお墓の継承で悩んでいて…どう思う?」と決定ではなく相談という形で切り出すのがコツです。事前に一声かけておくだけでも、後々のトラブル発生率は大きく下がります。特に年配の親族ほど「先祖の墓を守るのが当たり前」という考えを持ちがちです。そうした価値観を頭ごなしに否定せず、「自分も本来は守りたい気持ちはある」ことをまず伝えた上で、現実問題として維持が難しい理由(経済的負担や後継者不在など)を正直に相談しましょう。相談という形にすることで、反対する人も問題を自分事として考え始め、建設的な話し合いになりやすくなります。
相手の心情に配慮しつつ利点を説明する
墓じまいに反対する人の多くは「ご先祖様に失礼だ」「バチが当たるのでは」といった心配を口にします。まずは「そうだよね、自分も最初は戸惑った…」と相手の気持ちに寄り添ってください。その上で、「むしろ誰もお参りに行けず墓が荒れてしまう方がご先祖様に申し訳ないのでは?」と問いかけてみます。現状、墓守がいなくて放置されるリスクを伝えるのです。また永代供養にすればプロが定期的に供養してくれるので「誰もお参りできなくても寂しくないはず」といったプラス面も強調しましょう。実際、「管理してくれる人がいる永代供養墓に移すなら安心」と納得する方も多いです。どうしても反対が強い親族には、「ではお墓を今後お願いしてもいい?」と逆に任せてしまう提案も時には有効です(本当に責任を負える人はほとんどいないため、現実的な解決策として墓じまいに理解を示してくれることがあります)。
費用負担や手続きプランも開示して相談
親族によっては「墓じまいにいくらかかるのか想像できない」ために賛否を決めかねている場合もあります。そのため、概算でも良いので見積もりや費用内訳を示して説明することが有効です。「○○石材店に聞いたら解体に◯万円くらい、新しい供養先に◯万円くらい必要みたい」と具体的な数字を示せば、反対派も現実的に検討しやすくなります。また費用分担についても、「全額自分が負担する覚悟だが、もし可能なら一部協力いただけると助かる」といった相談をすることで、親族側も関与しやすくなります。特に兄弟姉妹など近しい親族には、費用のことも含めオープンに話しておくと後腐れがありません。離檀料のように寺院との交渉が必要な費用項目については、親族にも一緒に菩提寺に行ってもらうと良いでしょう。複数人で住職に相談に行けば、お寺側も誠意を汲んでくれやすくなり、法外な請求を防ぐ抑止力にもなります。
改葬後の供養先は複数の案を比較検討
墓じまい自体より「どこに改葬するか」で意見が割れるケースもあります。「実家から遠い納骨堂だとイヤだ」「合祀墓で骨が他人と混ざるのは嫌だ」等、供養方法へのこだわりは人それぞれです。最初から一つに決め打ちせず、いくつか選択肢を用意して親族に提案することも大切。例えば「近くのお寺の合祀墓プラン」と「少し遠いが個別安置できる納骨堂」の両方を資料用意し、どちらが良いか意見を聞くなどです。それぞれメリット・デメリット(遺骨が残る/残らない、費用感など)を説明し、親族も一緒に新しい供養先を選ぶプロセスに参加してもらいましょう。可能であれば現地の見学にも誘い、一緒に雰囲気を確かめてもらうと安心材料になります。親族が決定に関与することで、「勝手に決められた」という不満を防ぎ、皆が納得した形に持っていきやすくなります。
相手の価値観を尊重しつつ粘り強く対話する
ご先祖やお墓への考え方は人によってさまざまで、ときに平行線になることもあります。大事なのは、こちらの正論を押し通すのではなく相手の思いもいったん受け止めることです。「先祖代々の墓をなくすなんて寂しい」という気持ちには「本当にそうだね…」と共感を示しつつ、「でも現実問題として維持が難しいんだ」と低姿勢で切り出せば、相手も頭ごなしに否定はしにくくなります。そして、お互いの落とし所を探る対話を続けましょう。時間をかけて話すうちに、最初は反対だった親族が「自分も歳をとって管理は無理だし、仕方ないかもしれない」と心境が変わるケースもあります。一方で、どうしても同意が得られない場合は無理に説得しようとせず、専門家(墓じまい相談窓口や法律家)に相談するのも一つの方法です。いずれにせよ、「親族の反対意見を無視して強行しない」ことが円満な墓じまいの鉄則です。反対する人ほどご先祖思いの気持ちが強いとも言えますので、その気持ちを踏まえつつ現実解としての墓じまいに理解を促していきましょう。
最後に、親族への配慮として「お別れの場」を設けることも大切です。閉眼供養の法要は、言わば今まで守ってきたお墓への最後のお参りにあたります。可能であれば親族にも声をかけ、閉眼供養に立ち会ってもらいましょう。「これでお墓は片付けるけれど皆で感謝してお参りした」という区切りがつけば、感情的なしこりも残りにくくなります。お墓とご先祖への感謝を家族親族で共有し、「みんなで見送った」という事実を作ってから墓じまいを完了させると良いでしょう。
墓じまい後の供養方法いろいろ(永代供養墓・納骨堂・樹木葬など)
墓じまいをした後、取り出したご遺骨をどう供養するかは人それぞれです。「お墓を片付ける=ご先祖様をないがしろにする」わけでは決してありません。形を変えて供養を続けていくことが大切です。ここでは代表的な供養方法である「永代供養墓」「納骨堂」「樹木葬」を中心に、その特徴や仏教的な考え方への配慮について説明します。
永代供養墓(えいたいくようぼ)
お寺や霊園が遺骨を半永久的に預かり、供養してくれるお墓です。後継者に代わって施設側が管理・供養してくれるため、継承者がいなくても無縁仏にならない安心感があります。一般的に合祀型(ごうしがた)が多く、他の方の遺骨と一緒に埋葬されるスタイルです(※個別区画が用意され一定期間後に合祀するタイプもあります)。永代供養墓は石碑が一つで、多数の遺骨を納めるので費用も比較的抑えられ、ご遺族の負担も軽減されます。「子や孫に迷惑をかけたくない」「自分たち限りでお墓を閉じるので、あとは寺院に任せたい」という方に向いており、近年とても注目されています。仏教の視点でも、「途絶えがたい供養」をプロに委ねる形で、ご先祖様を継続して弔う有効な方法です。お彼岸や命日には合同法要が営まれることもあり、皆で供養してもらえるので故人も寂しくないと捉えることもできます。反面、「他人と合同のお墓」に抵抗を感じる方もいるので、親族と十分話し合って決めましょう。
納骨堂(のうこつどう)
遺骨(骨壷)を屋内施設に安置する供養方法です。都市部のお寺が運営する堂内にロッカー式の棚や仏壇型スペースがあり、そこに個別に収蔵します。屋内なので天候に関係なくお参りでき、アクセスが良い場所にあるケースも多いため「お墓を持たない代わりに納骨堂で供養する」家族が増えています。設備によってはカードをかざすと遺骨(厨子)が自動搬送されて拝める近代的なところもあります。費用はピンキリですが、ロッカー式で数十万円~、個室型で百万円超など区画の広さや期間で異なります。多くは永代供養プランがセットになっており、一定期間利用後は合同墓へ合祀といった契約も選べます。仏壇的な空間でお参りできる納骨堂もあり、「従来のお墓と変わらない感覚で手を合わせられる」と高齢の方にも受け入れられやすいです。一昔前は「一時預かり」のイメージがあり敬遠する人もいましたが、今ではれっきとした最終的な供養方法の一つとして認知されています。仏教的にも、お寺の中で供養されるわけですから安心感があります。難点は収蔵スペースに限りがあるため、親族が増えると追加費用が発生するケースがあることです。また屋内維持費として年会費が必要な所もありますので、契約内容を確認しましょう。
樹木葬(じゅもくそう)
自然の中で木や花を墓標として遺骨を埋葬する供養スタイルです。1990年代後半に岩手県のお寺で始まった新しい形のお墓で、「自然に還りたい」という願いをかなえるものとして人気が高まっています。専用の里山や庭園に区画が設けられ、遺骨は基本的に土に直接埋葬します(骨壷から出し、布袋等に包んで埋葬)。墓石は置かず、区画ごとに苗木や低木を植えたり、共有のシンボルツリーを植栽したりします。外観は緑あふれる公園のようで明るい雰囲気なのも特徴です。費用は区画の種類によりますが、一般的に20万~50万円前後で利用できるプランが多く、墓石を建てるより負担が軽い傾向にあります。樹木葬も多くは永代供養付きで、寺院や霊園が後々まで管理・供養してくれるので安心です。例えば「○年間個別埋葬した後に合祀墓へ移す」といった契約になっていることもあります。自然志向・環境志向の方に支持されており、「緑の中で眠れるなら故人も安らぐ」と好評です。仏教的にも、「自然に還る」という思想は決して否定的ではなく、むしろ輪廻転生や無常観とも通じるものがあります。ただし、場所が郊外にある場合はお参りのしやすさを確認したり、永代供養の内容(個別プレートの有無、遺骨の扱い)を事前によく確認したりすることが大切です。また、一度土中に埋葬すると後から遺骨を取り出せない場合が多いので、親族にも理解を得て決めましょう。
まとめ
以上、代表的な供養方法を紹介しましたが、どれにも共通するのは「ご先祖様を大切に想う気持ちはそのままに、時代に合った形で供養を続ける」という点です。仏教では本来、「弔いの形はこうでなければならない」という決まりは厳格ではなく、各ご家庭の状況や価値観に応じて多様な供養の形が尊重されています。実際、お墓を持たない選択をする人が増える中で、新しい供養スタイルが色々と登場しています。大切なのは形より心です。墓じまい後もご命日やお盆には手を合わせたり、折に触れて故人を想う気持ちを持ち続けたりしましょう。どの供養方法を選んでも、ご先祖様への感謝と思いやりを忘れずにいれば、その想いはきっと届くはずです。
最後にもう一度強調しますが、墓じまいは決して「先祖との縁を切る行為」ではありません。むしろ先祖を想うからこそ、次の世代に負担を残さない形で供養を工夫する前向きな決断です。仏教では代々お墓を守ることも尊い行いですが、事情によってそれが難しいならば形を変えて供養するのも許容されています。実際、宗派のしきたり上も墓じまいそのものは問題なく、檀家を離れること(離檀)も本人の自由意志でできます。ですから罪悪感を感じすぎる必要はありません。今あるご縁に感謝しつつ、これから先も安心してご先祖様を供養できる方法──それが墓じまいとその後の新しい供養スタイルなのです。親しみやすい形で末永く先祖供養を続けるために、本記事の情報がお役に立てば幸いです。どうか納得のいくかたちで進めてみてください。ご先祖様もきっと見守っていてくださることでしょう。
以上、仏教的な価値観にも配慮しながら、墓じまいの定義から手順・費用・親族対応・供養方法まで詳しく説明しました。読者の皆様が安心して墓じまいを検討・実行できる一助となれば幸いです。