ある日突然、借金の通知が自分の元にやってくる…
そんなことはありえないと、みなさん思っていませんか?
しかしこと相続の問題においては、ある日突然あなたにとって全く身に覚えのない借金や税金の督促状が届くことがあるんです。
それはなぜかと言いますと、民法における相続放棄という制度により、あなたと疎遠になった家族の借金や、あなたが会ったことのない親戚の債務が、巡り巡ってあなたの元に突然降りかかってくる可能性があるからです。
例えばですね、あなたの祖父母、それと両親は既に亡くなっていて、存命の親戚は叔父さんと叔父さんの妻と、その子供である従兄が1人いますが、叔父さん家族とは以前から疎遠だったとします。
あなたは叔父さんがどこに住んでいるかくらいは知っていましたが、もう何十年も会っていませんでしたし、向こうの生活状況も全くわかりません。
その後叔父さんが亡くなり、あなたはお葬式には出ましたが、その後は従兄達とも関わっていませんでした。
それから1年後に事件は起きます。
突然とある金融業者から「〇〇さんですね。叔父さんの借金を払ってください」とあなたのもとに連絡が来たんです。
皆さんこれは一体何が起こっているのかお分かりでしょうか?
実はですね、亡くなった叔父さんは、資産となる財産を持っていたのですが、それを大きく超える額の借金も抱えていたんです。
ですのでお子さんの妻と従兄達は叔父さんの財産と借金を相続することなく、相続放棄を選びました。
それでどうしてあなたの所に金融業者から連絡が来るのかと言いますと、民法上相続権を持った法定相続人が相続放棄をしますと、その相続権は別の親族に移動することになっているんですね。
どういうことか、まずは法定相続人というものについて説明していきます。
法定相続人とは民法で定められた相続人
民法では亡くなった方の財産を誰が相続するのかというところが定められていて、民法で定められた相続人のことを法定相続人と言います。
この法定相続人には、相続権を得て相続人になれる順位がありまして、下の図のように亡くなった人の配偶者は、順番など関係なく存命であれば常に相続人です。
順位によって相続人になるかならないかが変わってくるのは、亡くなった人の子供、亡くなった人の父母、亡くなった人の兄妹姉妹になります。
第1順位である子供がいれば、相続人は配偶者と子供になります。
配偶者がいなければ相続人は子供だけです。
もし子供が先に亡くなっていて、孫がいれば孫が相続人になります。
亡くなった方の父母と兄妹姉妹は相続人になれません。
次に亡くなった方に子供も孫もいなかった場合、第2順位である父母が存命であれば、相続人は配偶者と父母になります。
この場合も配偶者がいなければ、相続人は父母だけです。
亡くなった方の兄妹姉妹は相続人になれません。
では亡くなった方に子供も孫もおらず、父母もすでに他界していた場合ですが、この場合第3順位である兄妹姉妹がいれば、相続人は配偶者と兄妹姉妹です。
兄妹姉妹がすでに亡くなっていて、甥姪がいれば甥姪が相続人になります。
配偶者がいなければ相続人は兄妹姉妹、兄妹姉妹も亡くなっていれば、甥姪だけです。
このようにですね、親族の誰が存命か亡くなっているかで、相続権はコロコロ移動するんです。
そしてこれは相続権を放棄した場合も同じでして、今回例に出したケースに当てはめると、亡くなった叔父さんの相続人は、叔父さんの妻と第1順位である従兄でしたが、彼らは相続放棄をしましたよね。
そうなりますと相続権は第2順位であるあなたの祖父母に移動します。
しかし祖父母は既に死亡しているので、相続権は叔父の兄弟であるあなたの親に移動します。
そしてあなたの親もすでに亡くなっています。
ですので最終的に亡くなった叔父さんの相続権は、巡り巡ってあなたに回ってくるんです。
そこで冒頭にも言いましたが「財産を相続できる、ラッキー」と思ってはいけません。
財産より借金の方が多いから、あなたに相続権が回ってきたんです。
借金より財産の方が多かったら、先の順位の人たちが当然相続しますから、あなたに相続権は回ってきません。
あなたに相続権が回ってきた時点で、既にあなたはババを引いてしまっているんですね。
つまりあなたは、叔父さんの財産と財産の額を上回る借金を突然どうにかしなければいけなくなったんです。
ちなみにですね、相続放棄をした人や、それを受理した家庭裁判所には次の相続人はあなたですよと連絡をする義務はありません。
ですから疎遠な親戚に借金があった場合、思いもかけずあなたがその借金の相続人になることがあるんです。
本当に恐ろしいですよね。
自分は相続トラブルなんて無縁だと思っている方も、ある日突然会ったこともない人の借金を被る相続トラブルに、巻き込まれてしまう可能性が十分にあるんです。
ではもしもあなたがいきなり相続に直面してしまった場合、あなたは一体どうすればいいんでしょうか?
ここからはその対処法について説明していきたいと思います。
相続人の選択肢3つ
まず相続が発生した場合相続人となった方は、財産を相続するか放棄するかを上の画像で書いてある3つの選択肢の中から選ぶ必要があります。
借金より財産の方が多ければ一般的には単純承認を選べますが、もしも財産よりも借金の方が多いようでしたら、限定承認か相続放棄を選ぶことをおすすめします。
叔父さんの従兄達がこの相続放棄を行ったのですね。
そしてこの限定承認と相続放棄とは一体どういったものかと言いますと、まずあまり聞き覚えのない限定承認についてですが、これは財産よりも借金の方が、大きい場合や財産や借金の額がはっきりと把握できない場合に、亡くなった人から相続した財産額、これを限度として亡くなった人の借金を返すことになります。
つまり亡くなった方の財産を超える借金については、返済する必要がないわけですね。
亡くなった方の借金を返済した結果、財産の方が多ければ、借金の清算に余った分は自分のものです。
次に相続放棄ですが、これは財産よりも、借金の方が大きい場合、亡くなった方の財産と借金の全てに対して相続する権利を放棄することです。
ですがもし相続放棄を選んだ後に亡くなった方に、大きな財産があったことが分かっても、一度相続放棄を選択すると、その財産を相続することはできません。
そしてこの限定承認と相続放棄のどちらかを選択したいと思った場合には、自分が相続人だと知った時から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述書を提出しなければいけません。
この手続きを期間内に行わない場合には、財産の借金もすべて相続する単純承認を選んだとみなされてしまうので注意が必要です。
ですがここで皆さん思い出してみてください。
今回の場合、叔父さんが亡くなったことをあなたが知ったのは1年前でしたよね。
そしてあなたが叔父さんの法定相続人となったと発覚したのがつい最近です。
もう叔父さんが亡くなってからの3ヵ月はとうに過ぎてしまっていますよね。
では亡くなってから3ヵ月が過ぎてしまったら、あなたは相続した財産の範囲で借金を返す限定承認も、財産も借金も丸ごと手放す相続放棄もできないか、と言えばそうではありません。
限定承認や相続放棄の手続きは、相続人になったと知った時から3ヵ月以内にすればいいんです。
あなたが相続人になったと知ったのは、金融業者から連絡が来た時ですから、そこから3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きをすれば、問題はありませんので落ち着いて対処して頂ければと思います。
このように親戚関係が疎遠だったり、相続放棄をすれば他の親戚に相続権が移ることを知らなければ、思わぬ借金を背負うことになってしまう可能性がありますから、日頃から親戚とはある程度の交流を保ったり、亡くなった方の相続人が相続放棄をしていないかなどの動向を気にしておくなりして、親戚の死を自分とは無関係だとは思わないようにしていただければと思います。
では次に親が離婚していた場合の相続トラブルを紹介します。
親が離婚していた場合の相続トラブル
先日ある女性から相談がありました。
その女性をK子さんとしておきます。
K子さんは数十年前に離婚をしていて、元夫とは現在音信不通。元夫との間に息子さんが1人いるんですが、K子さんが親権者となりその子が独り立ちするまで育ててきました。
離婚の原因は元夫がギャンブルで借金を作ったことだそうです。
K子さんからの相談の内容は「元夫が亡くなったという噂を聞いたんですが、このまま何もせずにほっておいても大丈夫なんでしょうか?」というものでした。
離婚をした場合の各人の相続権はどうなるのかを、K子さんのご家族に当てはめて説明しますと、まず配偶者がもともと他人ですから、離婚をすればお互いの財産を相続する権利はなくなります。
元夫が亡くなっても、K子さんに相続権はありません。
2人の間に子供がいた場合、夫婦どちらかに引き取られたとしても、親子であることに変わりはありませんから、元夫とK子さんの財産を相続する権利があります。
元夫が再婚していて、再婚相手との間に子供ができた場合、元夫と再婚相手の間に子供ができても相続人が増えるだけで、K子さんとの間にできた、子供の相続権がなくなるということはありません。
ですので元夫が亡くなった際の相続人は、再婚相手の奥さんと再婚相手との間にできた子供、K子さんとの間にできた子供となります。
離婚に伴う相続権の変化は、概ねこのような感じです。
K子さんと元夫は音信不通でしたので、元夫が再婚したとか他に子供ができたとかこれは分からないそうなんですが、亡くなったということですので、K子さんの子供には元夫の財産を相続する権利があります。
しかしこのケースでも「財産を相続できるラッキー」と思ってはいけません。
なぜならK子さんが離婚した原因は、元夫のギャンブル問題でしたよね。
ギャンブル癖を直すのは難しいですから、K子さんと離婚した後もギャンブルと借金を繰り返していた可能性があります。
そうなると財産よりも借金の方が多いかもしれません。
亡くなったの元夫は財産の方が多いのか、借金の方が多いのか、K子さんとK子さんの子供は元夫とは長い間音信不通でしたから、相手の財産状況を確認することが非常に困難です。
この場合、K子さんの子供が取れる選択肢としましては、先ほどの話でも出てきました限定承認と相続放棄ですよね。
亡くなった人から相続した財産額、これを限度として亡くなった人の借金を返すことができる限定承認、亡くなった方の財産と借金の全てに対して相続する権利を放棄する相続放棄、このどちらかを自分が相続人だと知った時から、3ヵ月以内に家庭裁判所に申述書を提出しなければいけません。
しかしどちらにしようか決めあぐねて、何も手続きをしないまま3ヵ月が過ぎたり、子供の頃以来もう何十年も会っていない親だし、財産があったとしても相続するつもりはないと考えて、何も行動せずにいると、財産も借金もすべて相続する単純承認は選んだと見なされてしまいます。
こうなりますと、もし亡くなった音信不通の親に借金があれば、金融業者から突然連絡が来て、あなたが代わりに借金を背負うことになってしまいますので、自分が相続人だと知ったときから、3ヵ月以内に必ず限定承認をするか、相続放棄をするかの行動を起こしていただけたらと思います。
K子さんにこの単純承認、限定承認、相続放棄の違いについて説明したところ、早速子供に相続放棄の手続きをさせますと言われました。
皆さんももし、疎遠であったり音信不通の親が亡くなったことを把握されましたら、自分には関係ないと思わずに、専門家に相談されるなどして、3ヵ月以内に行動をとるようにしてください。
最後に余談なんですが、近年相続放棄をする人が増えています。
なぜ相続放棄が増えているのかですが、それはおそらく現代の日本が昔と違って誰でも簡単に金融業者からお金を借りることができるようになったことが、その原因の一つになっていると思います。
私が子供の頃なんかでしたら、お金を返せる能力、財力がある人にしかお金を貸す業者はいませんでした。
ですから昔は貧乏人は沢山いましたが、お金を借りようとしても誰も貸してくれませんでしたから、財産がなくても借金もなかったんです。
ですからどこの家庭も相続放棄をする必要がありませんでした。
しかし今では生活がやっとの人でも、簡単な審査でお金を貸してくれる業者がありますからね。
そのような方が金融業者からお金を借りる、その借金を返さないまま、亡くなってしまった結果、今回の動画のテーマである「いきなり相続」が起こってしまうんです。
本当に何が起きるか分からない、いつ思わぬ借金を背負うことになるかわからない社会になってきましたので、繰り返しになりますが、日頃から親戚とはある程度の交流を保ったり、亡くなった方の相続人が相続放棄をしていないか、などの動向を気にしておくなりして、親戚の死を自分とは無関係だとは思わないようにしてください。
今日は「あなたは相続によって突然借金を背負うことになる」という話をしました。
このチャンネルでは税務調査で調査官によく指摘されるポイントや、相続・贈与についての節税策、税金で損をしないための情報などを週に2回火曜・土曜日に投稿しておりますので、ぜひチャンネル登録をしていただければ幸いです。
以上です。ありがとうございました。
秋山清成
[ad-zeirishi]