親しい身寄りがいない「おひとりさま」でも、安心して人生の最期に備えることはできます。近年、単身高齢者は急増しており、2020年時点で約670万人(過去20年で倍増)にのぼります。家族に頼れずに亡くなると、遺体を引き取る人がいない「無縁遺骨」となってしまうケースも少なくありません。実際、生前に葬儀費用を蓄えていても身内が見つからず、葬儀を行えずに火葬だけになってしまった例も報告されています。こうした不安を解消し、自分らしい最後を迎えるために、終活(人生の終わりのための準備)が必要です。この記事では、身寄りがない高齢者でもできる葬儀準備の方法を、優しい口調でわかりやすくご紹介します。自分の最期に向けて今からできることを一緒に考えてみましょう。
目次
終活の必要性(おひとりさまの場合の課題)
おひとりさまにとって終活が重要な理由は、大切な「送り出し」を自分で整える必要があるからです。家族がいれば訃報の連絡や葬儀の手配を任せられますが、身寄りがない場合は自分の意思で準備を進めておく必要があります。終活をすることで以下のような課題に対処できます。
遺体や遺骨の引き取り手がいない不安の解消
事前に手続きを決めておけば、亡くなった後に遺骨が自治体に保管されっぱなしになる心配を減らせます。無縁遺骨の数は全国で増加傾向にあり、2021年10月時点で約6万柱にも上っています。終活で対応策を講じておけば、自分の遺骨の行方について心配せずに済みます。
自分の希望どおりの最期を迎えられる
準備をしておけば、「葬儀はこうしてほしい」「この人に見送ってほしい」といった本人の意思を尊重した葬送が可能です。身寄りがないと希望が伝わらず、最低限の火葬だけになってしまう場合もありますが、終活で意思を示しておけば自分らしい最後のセレモニーを叶えられます。
周囲への迷惑や負担を減らせる
信頼できる第三者や専門家に手続きを託しておくことで、近所の方や友人に突然迷惑をかけずに済みます。死亡後の手続きや遺品整理も含めて準備しておけば、万一の時に周囲が慌てずに済むでしょう。
要するに、終活は「万が一」に備える安心の源です。自分の人生の締めくくりを自分でデザインするつもりで、できることから始めてみましょう。

一人でも可能な葬儀の準備方法(信頼できる第三者の活用)
身寄りがいなくても、葬儀の準備は一人で進めることができます。ポイントは、信頼できる第三者をあらかじめ決めておくことです。第三者とは、親族以外であなたの葬儀や死後の手続きを手伝ってくれる存在を指します。例えば、仲の良い友人、ご近所付き合いのある方、民生委員さん、または有料のサポートサービス提供者などが考えられます。以下に具体的な準備方法を解説します。
葬儀の内容と規模を決める
まず、どのような葬儀を望むかを考えましょう。一般的な通夜・告別式を行う一般葬、家族や親しい人だけで静かに送る家族葬、儀式を省いて火葬のみ行う直葬など、希望する形式を書き出します。併せて予算も検討し、葬儀費用を確保しておきます。費用に応じてどの形式が現実的かも見えてくるでしょう。また「お経は不要」「音楽葬にしたい」など細かな希望もあればメモしておきます。後述するエンディングノートに書いておくと安心です。
連絡先リストの作成
自分の訃報を誰に知らせたいか、葬儀に誰を呼びたいかをリストアップしておきます。友人や元同僚、ご近所さんなどの名前と電話番号を書き出し、「大学時代の友人」「職場の先輩」など関係性もメモしましょう。身寄りのない方の場合、周囲はあなたの交友関係を把握していません。訃報連絡先リストを残しておけば、葬儀を手伝ってくれる第三者が確実に関係者へ知らせることができます。
葬儀社や第三者と事前相談・契約
信頼できる葬儀社に生前相談をしておくのも有効です。最近は多くの葬儀社が生前予約や事前相談に対応しており、希望の葬儀内容や費用を生前に相談できます。気に入った葬儀社があれば、生前契約(プレプラン)を結んでおくことで、亡くなった後にその葬儀社が速やかに対応してくれます。また、信頼できる第三者(友人や専門家)に、自分に万一のことがあった際はその葬儀社へ連絡してもらうよう依頼しておきましょう。葬儀社との契約書や連絡先は分かりやすい場所に保管し、第三者にも伝えておくと安心です。
NPOや民間の見守りサービスの活用
身寄りがなく不安な場合、高齢者見守りサービスや身元保証サービスを提供するNPO・法人に加入する手もあります。これらの団体は、緊急時の駆けつけや入院時の保証人代行、亡くなった後の連絡・手続き代行まで請け負ってくれるところもあります。費用は掛かりますが、「いざという時に家族代わりになってくれる存在」を確保することになり、安心感につながるでしょう。契約内容によって対応範囲が異なるため、サービスを利用する際は何をしてくれて何ができないのかを確認することが大切です(※後述の「死後事務委任契約」との違いも参考にしてください)。
以上のように、ひとりでも信頼できる第三者の手を借りながら準備を進めておくことが大切です。特に葬儀社との事前契約や連絡先リストの整備は、残された人(第三者)が動きやすくなる大きな助けになります。「自分の最後は自分で準備する」という前向きな気持ちで、一歩ずつ取り組んでみましょう。
行政による支援制度の活用(自治体の葬送支援制度・生活保護受給者向けの葬儀)
公的な支援も活用すれば、おひとりさまの葬儀はより安心です。お住まいの自治体には、高齢者の見守りや葬儀費用の補助など、終活や葬送を支援する制度があります。ここでは代表的なものを紹介します。
生活保護受給者向けの葬祭扶助制度
生活保護法に基づき、経済的に困窮する方の葬儀費用を自治体が負担する葬祭扶助(そうさいふじょ)制度があります。遺族が生活保護を受給していて葬儀費用を出せない場合や、故人に扶養家族がいない場合(この場合は大家さんや民生委員などが手配)に利用できます。支給される金額は自治体によって多少異なりますが、大人で概ね20万円前後(上限約20万6000円)と定められ、直葬(火葬式)に必要な最低限の費用が賄える額です。葬祭扶助を利用すると、読経など宗教儀礼は基本省略され、自治体から葬儀社に直接費用が支払われて自己負担ゼロで火葬まで行われます。申請は葬儀前に福祉事務所で行う必要がありますが、葬儀社が代理申請してくれる場合もあります。身寄りがない人の葬儀でも、この制度を使えば費用面の心配はひとまず和らぐでしょう。
自治体による葬送支援事業
一部の自治体では、単身高齢者のための独自支援制度を設けています。経済的に厳しく身寄りもない市民を対象に、生前の契約で葬儀・火葬・納骨を請け負う仕組みがあります。例えば神奈川県横須賀市では2015年から「エンディングプラン・サポート事業」を開始し、協力葬儀社と生前契約を結んで費用を預けることで、亡くなった後に市と葬儀社が連携して葬儀・納骨まで実施します。対象は身寄りのない低所得の高齢者に限られ、費用は一律26万円(生活保護受給者は5万円)に抑えられています。この制度により、生前の希望通りに葬儀が執り行われる人が増え、市が無縁仏として火葬・埋葬せずに済んだケースが増加しました。結果的に自治体の負担軽減にもつながっているそうです。
自治体による見守り・安否確認サービス
葬儀そのものではありませんが、高齢者の見守り支援も各地で行われています。地域包括支援センターや社会福祉協議会と連携し、ひとり暮らし高齢者宅への定期訪問や電話連絡を行う取り組みです。安否確認サービスを受けていると、自宅で倒れた時などに早期発見・対応につながります。例えば自治体が委託している見守り員や、ガス会社の「見守りセンサー」、配食サービスのスタッフなど、日常の中で異変を察知してもらう仕組みがあります。こうした行政サービスを利用し、「もしも」の時に備えておくことも終活の一環です。お住まいの市区町村の高齢福祉窓口に相談すると、利用できるサービスを教えてもらえます。
公的支援は所得要件など条件がありますが、該当すれば積極的に活用しましょう。特に葬祭扶助制度は生活保護者でなくても利用できるケース(扶養義務者がいない等)があります。葬儀費用に不安がある場合は早めに自治体に問い合わせてみてください。また自治体によっては、後述するような終活サポート事業や情報登録制度を独自に設けている所もあります。次章では具体的な自治体の例をご紹介します。

任意後見制度や死後事務委任契約の活用方法(専門家によるサポート)
おひとりさまが安心して最期を迎えるためには、法的な契約を活用することも重要です。特に注目すべき制度が、任意後見制度と死後事務委任契約です。これらは専門家など第三者に生前・死後の手続きを任せる契約で、身寄りのない方の心強い味方となります。それぞれの仕組みと活用法を解説します。
任意後見制度の活用
任意後見制度は、将来あなたの判断能力が低下した時に備えて、あらかじめ選んだ支援者(任意後見人)に財産管理や身の回りの世話を任せる契約です。公正証書で契約を結び、実際に判断能力が衰えた時に家庭裁判所の手続きで契約を発効させます。おひとりさまにとって特に重要なのは、任意後見人が死亡届の提出を代理できる点です。戸籍法上、死亡届を役所に出せるのは親族か任意後見人(または任意後見受任者)に限られており、民間の身元保証会社や葬儀社では提出権限がありません。死亡届が出せないと火葬許可証が発行されず葬儀・火葬の手続きが止まってしまいます。そのため、身寄りのない方ほど任意後見契約を結んでおく意義は大きいのです。任意後見人には弁護士や司法書士など専門職を指定できます。契約内容も細かく定められるので、「この範囲の財産管理をお願いしたい」「身の回りのこの支援をしてほしい」といった希望を盛り込めます。任意後見契約を結んでおけば、生前はもちろん、亡くなった直後まで公的に支援者があなたの代役を務めてくれるため、おひとりさまの強い安心材料となるでしょう。
死後事務委任契約の活用
死後事務委任契約は、亡くなった後の事務手続きを第三者に委任する契約です。任意後見が生前の支援契約だとすれば、こちらは死後の支援契約といえます。契約を結べる相手は信頼できる個人でも構いませんが、多くは司法書士・行政書士などの専門家や、死後事務を扱う法人です。契約内容に沿って、受任者(引き受ける人)は死亡後に必要な様々な手続きを代行してくれます。例えば以下のような事務を任せられます。
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葬儀や火葬の手配(葬儀社との打ち合わせ、火葬場の予約など)
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埋葬・納骨の手続き(永代供養先への納骨代行など)
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遺品整理と住居の明け渡し(部屋の片付けや貸家の退去手続きなど)
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各種料金の精算(公共料金や医療費の清算、クレジットカードや携帯電話契約の解約)
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役所への届け出(死亡届は任意後見人に任せ、それ以外の役所手続きを委任)
このように、身寄りのいない方が亡くなった後に本来家族が行う事務をまとめて任せることができます。ただし注意点もあり、死後事務委任契約では法律上できないこともあります。たとえば、遺産相続の手続き(遺産分割や預貯金の相続手続き)は契約の範囲外です。また前述のとおり、死亡届提出も契約では委任できません(※ここが任意後見契約の必要性に関わる部分です)。そこで、死後事務委任契約は遺言(遺言執行者)や任意後見契約と組み合わせて活用することが望ましいです。後述の遺言を作成し執行者を指定しておけば、相続財産の処理は執行者に、葬儀や身の回りの整理は死後事務受任者に、と役割分担ができます。死後事務委任契約を結ぶ際は公正証書で締結するのがおすすめです(紛失や改ざん防止のため)。費用は契約内容によりますが、基本契約に加えて預託金(葬儀費用・清算費用など)を事前に預けるケースが多いです。信頼できる専門家との間で契約を交わし、「死後の安心」を形にしておきましょう。
以上のように、任意後見契約と死後事務委任契約は、生前・死後にわたる包括的なサポート体制を築く柱となります。おひとりさまの場合、これらを活用することで法的にも万全な備えとなり、「もしもの時」もあなたの意思に沿った対応が実現しやすくなります。専門家に相談すれば手続き方法や費用の見積もりも教えてもらえますので、関心があれば地域の司法書士や行政書士に問い合わせてみましょう。
民間サービスの活用(エンディングノート・遺言・信託・その他の備え)
公的制度や契約以外にも、民間のサービスやツールを活用して終活を進めることができます。特に「エンディングノート」「遺言書」「信託」などは、おひとりさまの終活において重要なポイントです。それぞれの概要と活用方法を確認しましょう。
エンディングノートを書く
エンディングノートとは、自分の人生の記録や、万が一の時に備えた情報・希望を書き留めておくノートです。法的効力はありませんが、その役割は2つあります。ひとつは「自分の死後に残された人が困らないよう情報を整理すること」、もうひとつは「自分の意思やメッセージを伝えること」です。ノートには自由に様々な項目を書けますが、特におひとりさまの場合は以下の点を盛り込むと良いでしょう。
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基本情報: 本人の氏名・生年月日・本籍地・マイナンバーなどの情報。緊急連絡先(頼れる友人や第三者、かかりつけ医)。
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財産リスト: 預貯金や不動産などの資産、利用中の金融機関、保険の契約状況など。重要書類の保管場所も記載します。
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葬儀・お墓の希望: 希望する葬儀の形式や規模、呼んでほしい人のリスト、葬儀社の連絡先、生前契約の有無、遺影に使ってほしい写真の場所など。お墓や納骨についての希望(どこの墓に入りたいか、永代供養や散骨を希望するか)も書きましょう。戒名をいただいている場合はその旨も。
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医療・介護の意思: 延命治療を望むか否か、臓器提供の意思、緊急搬送時の対応など、生前の医療・介護に関する希望。これらは「もしもの時に伝えたいこと」としてノートにまとめ、関係者と共有しておくと安心です。大阪市都島区では実際に医師会等が協力して、高齢者が自身の医療・ケアの希望を書き留められるノート『もしもの時に伝えたいこと』を作成し、地域での普及を図っています。
エンディングノートは市区町村で無料配布していることも多いです。実際、全国で約300もの自治体が独自のエンディングノートを配布しています。書き方が分からなくても大丈夫。難しく考えず、書けるところから少しずつ埋めていきましょう。ノートを作成したら、信頼できる第三者や専門家にもその存在と保管場所を伝えておくといざという時に役立ちます。

遺言書の作成
身寄りがない方ほど遺言書(ゆいごんしょ)を作っておく意義は大きいです。遺言書があれば、自分の財産を誰に遺すかを自由に指定できます。配偶者や子がおらず相続人が限られる場合、自分の意思を遺言で示しておかないと、残された財産は法律で決まった遠縁の親族に渡ったり、相続人が一人もいなければ国庫に帰属してしまう可能性もあります。例えば「お世話になった友人に財産の一部を遺贈したい」「信仰する寺院に寄付したい」「ペットのために資金を残したい」など、自分の希望する資金の使途がある場合は、必ず遺言書に明記しましょう。遺言書は自分で全文を書く自筆証書遺言でも構いませんが、法的に確実に執行してもらうには公正証書遺言がおすすめです。公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言なら、内容の不備で無効になる心配がなく、原本も保管されるため紛失のリスクも減ります。なお2020年からは法務局の自筆証書遺言書保管制度も始まり、自筆の遺言書を公的機関で預かってもらえるようになりました。遺言書には遺言執行者(遺言の内容を実現する人)を指定することも重要です。信頼できる友人や専門家を執行者に指名しておけば、死後、遺産整理や名義変更などの手続きをスムーズに進めてもらえます。死後事務委任契約の受任者と併せて同一人物を執行者にしておくことも可能です。いずれにせよ、遺言書は「最後の意思表示」。おひとりさまが自分の財産や想いをどう遺すか、しっかり記しておきましょう。

信託の活用
信託(しんたく)は、自分の財産を信頼できる受託者に託し、指定した受益者のために管理・処分してもらう仕組みです。終活でよく利用されるのは家族信託(民事信託)や銀行の遺言信託です。家族信託では、例として「自分を受益者、友人を受託者として、自分の死後は○○団体に財産を寄付する」というような契約を結ぶことができます。これにより、自分の意思通りに財産を処理しつつ、生前は受益者として財産の利益を得られるようにできます。また終活信託といった商品を提供する信託銀行もあり、葬儀費用や納骨費用を信託で積み立て、死亡時にその資金を指定の葬儀社や受取人に渡すサービスも存在します。例えば○○信託銀行の「○○エンディングサポート信託」などが該当します。信託を活用すると、法定相続の枠にとらわれずに資金を柔軟に配分できる利点があります。もっとも、仕組みが複雑なので専門家に相談しながら進める必要があります。資産規模や目的に応じて、信託も終活の選択肢に入れてみましょう。
その他の民間サービス
上記以外にも、おひとりさま向けの民間サービスはいろいろあります。例えば、民間の身元保証代行サービスでは、入院や介護施設入所の際の保証人を引き受けてくれるものがあります。プランによっては緊急時駆けつけや買い物代行など日常サポートが含まれるもの、さらには葬儀や納骨、遺品整理までセットになっているものもあります。NPO法人や一般社団法人で高齢者支援を行っている団体(例:「〇〇の会」「△△サポートセンター」など)は、比較的低価格でこうしたサービスを提供している場合があります。また、生前にお墓を契約しておく「永代供養墓プラン」や、葬儀社の互助会に積立加入しておいて葬儀費用を準備する方法もあります。自分に必要なサービスを取捨選択し、公的支援で足りない部分を民間サービスで補うイメージで計画すると良いでしょう。
以上、エンディングノート・遺言・信託を中心に、終活に役立つ民間の手段をご紹介しました。大切なのは、「自分の情報や希望を形に残すこと」と「専門家やサービスを上手に使うこと」です。これらを駆使すれば、たとえ身寄りがなくても、自分の残したいもの・実現したいことを確実に次世代へ引き継げます。最期まで「自分らしく」あるために、できそうなことから始めてみましょう。
自治体の具体的な支援制度紹介(東京都・横浜市・名古屋市・大阪市 など)
ここでは、実際にいくつかの自治体で行われている終活・葬送支援の取り組みを紹介します。自治体によってサービス内容は様々ですが、おひとりさまに心強いものばかりです。お住まいの地域でも似た制度がないか、ぜひ参考にしてください。
東京都豊島区「終活あんしんセンター」
東京23区で初の終活専門窓口として、豊島区は2021年2月に「終活あんしんセンター」を開設しました。社会福祉協議会が区から委託を受け運営しており、相続・遺言・葬儀など終活全般の相談がワンストップでできます。開設から累計2000件以上の相談が寄せられており、「見守り訪問サービスや成年後見制度の利用など、社協が従来持つサービスにつなげるケースも多い」といいます。さらに豊島区は2022年4月から終活情報登録事業も開始し、緊急連絡先やエンディングノート保管場所、墓所の所在地など計11項目の情報を区に登録できるようにしました。こちらは年齢や所得の制限なく利用でき、2023年8月時点で34人が登録しています。豊島区社協では、見守り・入退院支援・葬儀・家財処分などをパッケージで支援する新規事業も準備中で、区民の終活を総合的にバックアップしようとしています。東京都内では他区でもエンディングノートの配布などありますが、豊島区のように専用窓口を設け包括支援に乗り出す例は先進的です。
参考 豊島区終活あんしんセンター東京都豊島区横浜市「わたしの終活情報登録」制度(導入予定)
政令指定都市である横浜市も、身寄りのない高齢者支援に本腰を入れ始めました。横浜市では2025年度中に、本人の葬送や終活に関する情報を事前に市に登録できる情報登録制度を初めて導入する予定です(開始目標は2026年1月)。対象は希望する65歳以上の高齢者で、葬儀社との契約状況、遺言の有無、緊急連絡先、エンディングノートの保管場所などを市のシステムに登録します。万一、高齢者が亡くなった際には、病院・警察・消防など関係機関からの問い合わせに対し、各区役所がシステム登録情報を照会して本人の希望や連絡先を速やかに伝達できる仕組みです。スマートフォンやPCから本人が直接登録する形を想定していますが、操作が苦手な方向けに各区1カ所ずつ入力支援窓口も設置するとのこと。さらに、この制度とは別に、身寄りのない高齢者の不安や悩みに対応する終活相談窓口も今年度中に市内に開設予定です。横浜市が参考にしたのは、前述した横須賀市の「終活情報登録伝達事業」で、横須賀市では2018年から同様の登録制度を行い2025年4月時点で1,054人が登録しています。横須賀市では実際に、自宅で孤独死された方の緊急連絡先や事前相談内容を警察からの問い合わせに応じて提供し、対応に役立てたケースもあるそうです。横浜市担当者は「尊厳のある最期を迎えるため、本人の意志を支援につなげられれば」と制度の意義を語っています。大都市・横浜がこうした取り組みを始めることは、全国的にも大きな注目を集めています。
参考 高齢者の皆様の暮らしにさらなる“あんしん”をお届けします横浜市名古屋市「あんしんエンディングサポート事業」
名古屋市では2023年度から、身寄りのない高齢者のための包括支援策「あんしんエンディングサポート事業」を開始しました。対象は名古屋市内在住の65歳以上一人暮らしで、子や孫がいない方など一定の条件を満たす高齢者です(生活保護受給者は対象外ですが、市民税非課税で預貯金1,000万円以下などの条件あり)。この事業では、名古屋市社会福祉協議会が契約主体となり、協力事業者と連携して以下の支援を行います。
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生前の見守り・安否確認: 月1回以上の電話連絡、半年に1回以上の訪問で安否確認を実施。孤独死の防止につなげます。
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葬儀・納骨の実施: 契約者が亡くなった後、葬儀の手配から火葬・納骨までを確実に行います。希望により、決められた合葬先への納骨も含まれます。
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住居の片付け・明け渡し手続き: 賃貸住宅に住んでいた場合、遺品整理や家財処分、大家さんへの明け渡し手続きを代行します。
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行政手続き代行: 死亡に伴う役所への届出(住民票抹消等)や、公共料金等の解約・精算連絡を行います。
これらのサービスに必要な費用は契約時に預託し、一括で預けておく方式です。具体的には葬儀・納骨費用25万円と、家財処分費用(見積額)を前払いし、死亡時にそこから費用が支出されます。名古屋市の担当窓口は社会福祉協議会内に設置されており、2024年2月から制度が拡充され預貯金要件が緩和されるなど、利用しやすさが向上しています。このように名古屋市は行政と社協が連携して生前から死後まで支えるモデルを構築しており、「住み慣れた地域で最後まで安心して暮らせるようにする」ことを目指しています。
参考 名古屋市あんしんエンディングサポート事業名古屋市大阪市の取り組み(例:都島区「もしもの時に伝えたいこと」冊子)
大阪市でも、終活支援の一環として情報提供ツールの整備が進んでいます。例えば都島区では、在宅医療・介護に関わる専門職らが協力し、「もしもの時に伝えたいこと」というエンディングノートに近い冊子を制作しました。これは人生の最終段階に備え、自分が望む医療やケア、葬送に関する希望を整理し周囲と共有するためのものです。冊子の内容には「わたしのこと(基本情報)」「もしもの時のわたしの想い(延命治療の希望など)」「伝えておきたいこと(家族や大切な人へのメッセージ)」等が含まれています。法的拘束力はないものの、誰でも気軽に書き始められるよう工夫されており、区内の高齢者に配布されています。また大阪府内では、大阪府社会福祉協議会が中心となって「地域終活支援隊」というネットワークを作り、府内各地域で終活相談に応じたり、身元保証・死後事務・遺品整理等に対応できる協力企業を紹介する取り組みも行われています。大阪市自体も、高齢者向けにエンディングノートの提供や、家族がいない人のための福祉相談窓口を設置しています(各区役所や地域包括支援センターで対応)。
このように、各自治体が独自の終活・葬送支援策を打ち出し始めているのが現状です。東京や横浜など大都市では相談窓口や情報登録の仕組みが整いつつあり、名古屋市のように実務面までサポートするケースも出てきました。お住まいの自治体にも類似の制度がないか、ぜひチェックしてみてください。自治体のホームページで「終活」「葬儀支援」「身寄りのない」などのキーワードで検索すると情報が見つかることがあります。また地域の広報誌や民生委員さん経由で案内が届く場合もあります。せっかく利用できる制度があるなら遠慮なく活用し、行政という「公」の力を借りて安心を手に入れましょう。
参考 「もしもの時に伝えたいこと」を作成しました大阪市都島区一人でもできる終活の進め方(チェックリスト付き)
最後に、おひとりさまが一人でも進められる終活のステップをチェックリスト形式でまとめます。できることから少しずつ取り組んでみましょう。以下の項目を順番に実践すれば、身寄りがなくても着実に最期の準備を整えることができます。
いざという時に連絡を取ってもらう相手(友人や知人、地域の相談員など)を決め、連絡先をエンディングノート等に記載します。その人には「自分に何かあったらお願いします」と事前に頼んでおきましょう。
以上が、おひとりさま終活の基本的なチェックリストです。一度に全て完璧にやろうとする必要はありません。できることから少しずつ取り組んでいき、思いついた時に追記・修正していく形で十分です。大事なのは、「自分の最後を自分で準備する」という前向きな姿勢です。その姿勢がきっと日々の安心につながり、残りの人生をよりいきいきと過ごすエネルギーになるでしょう。
おわりに
おひとりさまの終活について、かなり盛りだくさんの内容をお伝えしました。ポイントを振り返れば、「情報を残す」「人に託す」「公的支援を使う」の三本柱です。身寄りがなくても大丈夫、あなたの最期の舞台はあなた自身でしっかりとプロデュースできます。不安なことは専門家や行政に相談し、利用できる制度はどんどん取り入れてください。この記事がお役に立ち、皆さまが安心してご自分らしいエンディングを迎えられる一助となれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。