皆さんこんにちは、相続専門税理士の秋山です。
今日は遺産分割協議の基礎と、分割の際の勘違いしやすいポイントについてお話しします。
相続が発生した場合、相続税の申告書を作成し、税務署に提出するまでの期間は、被相続人が亡くなってから10ヶ月しかありません。
残された相続人の方々は、その10カ月の間に個人の財産を相続人の間でどう分けるかを話し合う、遺産分割協議を行う必要があります。
今日はそんな、相続において重要な遺産分割協議について、遺産分割協議の基本ルールと、遺産分割協議がまとまらない場合のデメリット、そして遺産分割が無効になってしまう条件と、一度整理した遺産分割協議は改めてやり直すことができるのか、という4つのテーマについてお話をしていきたいと思います。
まず遺産分割の方法には、大きく分けて4つのパターンがあります。
1、遺言書が存在する場合に遺言書通りに遺産を分割する方法
2、相続人同士で協議をして遺産を分割する方法
3、相続人同士での分割協議がまとまらない場合
4、家庭裁判所で調停員の立ち会いのもと、話あって遺産を分割し、それでもまだ話がまとまらない時は、家庭裁判所において裁判官から決定処分が下される
この4つのパターンがあるんですね。
では順番に説明していきます。
まず遺産分割協議に関する大前提として、残された相続人の方たちは、亡くなった方が生前に遺言書を残していたかどうかを確認しましょう。
といいますのも、亡くなった方が作成した遺言書というのは、残された相続人同士が行う、遺産分割協議がこじれた際には、非常に大きな効力を持つからです。
具体的に説明しますと、下の図のように夫が亡くなり、3人の相続人がいたとします。
夫が残した遺言書では、妻に1億円、長男に6000万、次男に4000万円を相続させると書いてあったとします。
妻と長男は、この遺言書の内容に納得していましたが、次男が、長男が自分よりも2000万円も多く財産を相続するのはおかしい、自分と長男で5000万円ずつ相続するように遺産分割をするべきだ、このように主張した場合、この次男の主張は通るのでしょうか。
答えは次男の主張は通りません。
なぜなら遺言書の効力は、各相続人個人の主張よりも強い効力を持っているからです。
なのでこのケースの場合は、次男は今回の分割協議では4000万円の相続で我慢をするしかないんですね。
ここまでの話を聞いて、じゃあ遺言書があったら相続人全員が遺産の分割方法を変えたいと思っていても、遺言の内容を変えることができないのか?
こんな風に思われた方もいらっしゃると思います。
先ほど、遺言書は非常に大きな効力を持っているという風に言いましたように、うちの事務所にいらっしゃるお客さんの中でも、一度作成された遺言書の内容は絶対に変えることはできないと、このように思われている方も多いんですね。
よくテレビドラマでも、仰々しく遺言書の内容が読み上げられ、それに対して相続人たちが骨肉の争いをする、という内容を目にしますから、遺言書の内容は絶対と思う方が多いのも仕方ありません。
ですが実際はそうではないんですよ。
遺言書の内容というのは、実はある条件のもとでなら変更することが可能なんです。
その、ある条件というのは、相続人全員の同意があるかどうか、ということです。
相続人全員の同意があった場合では、亡くなった方が残した遺言の内容は自由に変更することができます。
ですので、先ほどの例で言いますと、次男が自分と長男で5000万円ずつ相続するように遺産分割をしたい、という提案に対して、他の相続人である妻と長男が同意すれば、亡くなった方の遺言の効力を超えて遺産の分割が可能ということになるんですね。
ではこの家族に、遺言書もなく相続人同士での遺産分割協議もまとまらない、こういった場合どうなるかですが、この場合は家庭裁判所で調停や審判の手続きを利用することができます。
その際に家庭裁判所への申し立てを誰がするのか、といいますと、相続人のうちの誰か一人、あるいは複数人が他の相続人全員を相手として申し立てを行います。
その際には、まずは調停を申し立て、それでも話がまとまらない場合には審判による分割を行います。
調停分割とは、家庭裁判所で調停委員を挟んで協議を行い、分割を成立させるという方法です。
各相続人が個別で調停委員と話をするので、相続人同士が顔を合わせることはほぼありません。
顔を合わせて話をしないとはいえ、相続人全員の合意がとれないと調停はまとまりません。
遺産分割ができないままなんですね。
調停分割で相続人全員が同意をしなかった場合、どうなるかといいますと、調停を取り下げない限り、自動的に審判分割の手続きが始まることになります。
この審判分割とは調停分割のときのように調停委員を間に挟んで合意を目指すというものではなく、相続人それぞれが自分の主張とその根拠になっている証拠を出して、それを基に裁判員が判断を下すことになるんです。
裁判官の決定には強制力がありますから、裁判官が決めた内容通りに遺産を分割しなければいけないんですね。
では次は、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合の、デメリットの話をしたいと思います。
申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合の最大のデメリットは、相続税の額を大きく減らすことができるお得な特例が使えないという事です。
相続税の特例には、亡くなった方が住んでいた土地を、配偶者か同居の親族が相続した場合、80%引きで相続できるという、小規模宅地の特例や、亡くなった方の配偶者なら、亡くなった方の財産を最低でも1億6000万円を非課税で相続できるという、配偶者の税額軽減という特例があります。
しかしこれらのお得な特例を受けるためには、相続人全員で特例の使用も含めた遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成し、相続税の申告書を出す際に、特例を使用する旨の書類と遺産割協議書を一緒に提出して初めて、特例が適用されるんです。
ですので、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合は、相続税の額を大きく減らす特例が使えないというデメリットがあることは覚えておいてください。
また、せっかく遺産の分割協議を行ったとしても、その協議自体が無効になってしまうこともあります。
具体的な例を挙げますと、遺産分割協議は亡くなった方の相続人となる全員の参加によって行わなければ、無効になってしまいます。
先ほどの家族のケースで言いますと、次男を除け者にして、亡くなった方の奥さんと長男だけで遺産分割の協議を行い、遺産分割協議書を作成したとしても、その分割協議は無効です。
ですので、遺産の分割協議を行う際には必ず相続人全員が参加、または遠方であっても、協議の内容に同意している状態で行なってくださいね。
また、以前の動画でもお話しましたが、相続人の中に認知症の方がいる場合、押印や署名を勝手に、他の相続人の方が行うことは犯罪行為になる場合がありますので、絶対にしないようにしてくださいね。
最後に、一度成立した遺産分割協議を改めてやり直すことができるんですか、と言う質問もまれにお客さんから受けることがあるんですが、遺産分割協議が成立した後に、もう一度遺産分割協議をやり直すことは原則としてできません。
ただし、下の画像で書いてあるような、無効・取り消しの原因となる、正当な理由があれば一度成立した遺産分割協議であっても、一部または全面的にやり直すことができますので、不当な扱いを受けて、遺産分割を自分以外の相続人で行われた際の対抗手段として、是非覚えておいていただければと思います。
今日は、遺産分割協議の基礎と、分割の際の勘違いしやすいポイントというお話をしました。
このチャンネルでは、税務調査で調査官によく指摘されるポイントや、相続贈与で損をしないための情報などを中心に、火曜土曜日に投稿しておりますので、ぜひ画面右下のボタンからチャンネル登録をしていただければ幸いです。
以上です、ありがとうございました。
秋山清成
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